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●プロレス(G)萌え ●名作プロレス小説のアーカイブ ●作者不詳の作品も保管します。 ●イケテル画像の保存活動(笑)
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格技場は熱気で蒸せ返る状態だった。

シャワーを浴びるのは三年生からだ。一年生の孝司もちろん後回しだ。汗がたまるレスリングのマットを掃除る。

二年生の声がかかる。シャワー室が空いたのだ。孝司も他の奴らと道場を出ようとした。

孝司!つきあえ。

道場に低く響く仁太郎の声。

ウッス!

孝司は短く応えた。


週1ペースの仁太郎とのプロレス。仁太郎とのプロレスシビアなものだった。

孝司もヤラレっぱなしということではなかった。
いつも勝ちにいく姿勢があった。


誰もいない格技場に孝司と仁太郎がいた。

今日は勝っスよぉ!!

孝司はパンパンとほほを叩いた。

仁太郎はうつむき加減に静かに笑う。三年生の中で一番の巨体の仁太郎は孝司のあこがれだ。

孝司はタックルで下半身を崩しにいく。

しかし、ビクともしない。孝司も体格では負けてないなかったのだが、仁太郎の下半身の強さは並みではない。

無口な仁太郎の攻撃は凄みがあった。

タックルをかました孝司の腰に腕をまわすと軽々と孝司を逆さに持ち上げる。あっ!と思った瞬間に孝司はマットに突き刺さる。パワーボムだ。

孝司の動きがパタリと止まった。大の字にノビる孝司の頭をつかみ上げると仁太郎は両脚を巻き付ける。

グゥフゥウッ!!

仁太郎の首4の字が孝司を締め付ける。孝司は後頭部に仁太郎の呼吸の間合いに合わせて上下する腹筋を感じた。

仁太郎は『ギブ?』とは聞いてこない。相手が降参の意思表示をするまで技を強めていくだけだ。

ゲェッフッッゥウウ!!!

孝司はもがくように両手で締め付ける仁太郎の脚に少しでも隙間を作ろうと努力した。しかし、仁太郎の太い脚のチカラはギリギリと孝司の首を絞り上げた。

仁太郎は股間に挟まる孝司の顔色を見ながら更に絞りあげてゆく。

ガッゥッフゥウッッ!!

仁太郎は左手で自分の右足のツマ先を引き絞る。下腹部を強力に突き上げる。万力のように孝司を首4の字で絞りあげる。

ガッアァアッァハァアッッ!!!!

孝司はそれでも諦めず、転がるように反転。
構わずに締める仁太郎だったが、バランスが崩れて威力は弱まった。

孝司は引っこ抜くように仁太郎の首4の字から脱出。

孝司は腹ばいの仁太郎めがけて体重を乗せた右エルボーを後頭部首筋に叩き込んだ。

ガァアッッァア!!

仁太郎のうめき声が響いた。

続けてジャンプ。孝司の右膝が仁太郎の腰を襲った。

グゥゥハァアッァツッ!!

動かない仁太郎の両脚を抱え込むと孝司は腰を下ろす。

ガァァッァァ!!

孝司の逆エビ固めが仁太郎をとらえた。

ギブっすかぁぁあ!!??

いつものことだが仁太郎は何も答えない。『ノー!!』ということだ。孝司の両腕にググッとチカラコブが盛り上がる。

グッフゥゥッッ!!

オオゥウラァアアッッ!!!!

鍛えた大胸筋がバーンと張る。孝司は天井を見上げるようなカタチで仁太郎を逆エビで絞り上げた。

孝司の全力で掛ける逆エビ。それでも仁太郎は耐える。
しかも少しずつ脚のチカラで逆エビを返そうとしていた。

そうはさせないと思う孝司だったが、焦りと汗で逆エビの体勢が崩れた。

孝司は仁太郎を無理矢理立たせるとブレーンバスターの体勢を作った。しかし、仁太郎の重い腰はなかなか持ち上げることができない。瞬間、仁太郎のほうが孝司をブレーンバスターの体勢に持ち上げた。後ろに投げるのではなく、仁太郎は孝司を垂直にマットに落とした。

ッッゴッフッッ!!

朦朧とする孝司に仁太郎はカラダを絡めてゆく。

孝司の左脚に仁太郎の右脚が絡まる。
仁太郎の左脚が孝司の首筋に巻き付く。
孝司の右脇が仁太郎の左腕に捕らえられる。

ッッッガァァアアアッッッッァアア!!!

極まったのは仁太郎のグランド卍だ。

孝司は負けたくなかった。

仁太郎の呼吸が聞こえる。息を整えている。
孝司の『ギブ』なしを確認していた。

仁太郎のブットイ左脚が孝司の首をそぎ落とすようにチカラを加える。

ガッハァァハァア!!

同時に孝司の右腕と脇腹にちぎれるような痛みが襲う。

ゥウハァァアッッ!!!

完璧なグランド卍。
逃げられなかった。
それでもギブしない孝司。

それにこたえるように仁太郎も全力でグランド卍を掛ける。甘えはなしだ。

仁太郎の筋肉に包まれた巨体がバネのように孝司のカラダをコワシにかかる。それが二人のプロレス勝負だ。

仁太郎は容赦しなかった。『ギブアップ』まで手加減無しだ。

ガァッッ!!

ギリリギリリ

グウゥウハガァアハッッァァ!!!

ゴギィイ

ハァアウゥウハァ!!ギッッッィイ!!!

ビギィッシッッッ

ガ!!ッッハッッッ!!!!!

バンバンバン!!!!!!!!!!

孝司がマットをたたく。

ギブっス!!!ギィブァァアップッッ!!!!

ほどけるように卍から解放される孝司。

孝司も仁太郎も汗みどろでマットにあぐらをかいた。

完璧マンジだったっス。

仁太郎は笑っていた。

孝司も笑った。


〜この作品はこれで一応の終了です。皆さんの妄想でもっともっと続けて欲しいです(笑)〜
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 ヤルゼー!!1年!!

雅也が道場にやって来た。

今日は赤いな。

翔が雅也の髪の毛をクシャクシャっとなぜた。ヘヘッと雅也は笑った。

試験終わったからよ、プロレスしようーぜぇい!

雅也はイソイソと上半身ハダカになると、道場を見回した。軽くストレッチをしていると、一歩前へ出る勇太。

勇太かよ。ヤッちゃうぜ?

雅也はヘッと笑っていたが、勇太は真顔だった。

今日は勝ちます!

いつになく真剣な勇太だった。


雅也は青いテロテロサッカーパンツ。勇太は黒スパッツだった。

雅也の大腿部は迫力満点。毎日の走り込みは伊達ではない。

二人はすでに先輩後輩という感じではなかった。少なくとも、勇太には遠慮が感じられなかった。


勇太がジャンプ。
闘いは勇太の放つドロップキックから始まった。
マットに平行に飛んだ勇太のケリを軽くいなす雅也。

マットに落ちる勇太にすぐさま雅也の左脚が振りおろされた。

ガッッフッッ!!

雅也のギロチンドロップだ。素早い動きで勇太の左腕を掴むと雅也の両脚が挟み込む。腕ひしぎ!

勇太はしのぐ。
極められたら終わりだ。そんな闘いだった。

雅也はイッパツ勇太の左脚にケリを入れた。

オラオラ立て立て!!

勇太が立ち上がった瞬間に発射。
雅也のドロップキックが勇太の胸板を直撃。
転がる勇太を無理矢理立たせるとDDT。
勇太はボスっとマットに突き刺さる。

雅也は勇太に被さる。カウント。

まだまだっスよぉ!!

雅也は楽しそうにヘッと笑った。
勇太の右腕を取って立ち上がらせるとフラつく勇太へ雅也の右腕ラリアットが襲った。もんどりうって転がる勇太。

雅也が転がる勇太の左脚を掴み上げる。
ニッと笑うのが勇太には見えた。
流れる動きで勇太の左脚が雅也の右スネに巻き込まれていく。勇太はカラダをくねらせて逃げようともがいたが、雅也の脚の力は想像以上だった。

自分の左脚のふくらはぎが自分の右スネに重なるのが見えた。ニッと笑う雅也の口元が見えた。

ヤッパこれっキャねーか?

雅也が勢い込んでマットに倒れた。
瞬間、勇太の左足の甲に雅也の左脚ふくらはぎがはまった。ガチリと音がしたようだった。

ッッッウツツツツッゥッツ!!!

ギブ?ギブ?ギブ????ッッ??

ノォォーゥゥウウォオオノノ!!!!!

雅也はマットに両手を付けて4の字固めを安定させた。
痛みにこらえる勇太。
雅也の脚のチカラ加減で勇太の顔が歪み、そして叫び声が出た。

雅也がマットに受け身を取る。
ビクンと勇太のカラダ全体が痛みに反応した。

勇太!!ギブかッッ!!

ノノノッッゥウォオノゥ!!

雅也のハダシの足がマットにねじりの跡を付けていた。

うあぁあらぁああ!!!

勇太は雅也の4の字のままひっくり返すことに成功。

勇太はそのままロープ。

雅也は4の字を解く。

いち早く立った雅也のボディにフイをついて勇太の右膝が入った。
前屈みになった雅也をDDT。

勇太は雅也の左腕を掴むと両脚で雅也の首諸共に挟み込んだ。マットに倒れ込む勇太。
三角絞めだ。

勇太の股の中で雅也の赤毛が乱れていた。

センパイ!!ギブッすか??

ノウノウ!

短く応えた。

雅也は下半身の反動を付けてひっくり返した。
執拗に勇太は絞めようとするが、どうにも力が入らなかった。さっきの強烈な4の字固めのせいだった。

雅也は腕の力で勇太の絞めを外していく。

息の荒い勇太の背後から雅也の両脚が挟み込まれた。

勇太が掛けた三角絞めそのままに雅也の脚がロックしていく。

勇太の左腕は雅也の両腕に捕らえられ、左脇と首が雅也の両脚で固められていた。

ガッガッッフォッフッッ!!!

オラッッ!!勇太!!ギブッッ??!!!

ッッノッノッツノオッ!!

勇太には道場のハロゲンランプの光りしか感じられなかった。
両耳が雅也の太股に塞がれて、まるでプールの中でのような感覚に襲われた。

勇太の下半身はバタバタと動くが、雅也は冷静にバランスを取っていた。

ギィィブウゥ??

ガッハァァッッツ!!ノノノッッ!!

そうらっ!!

雅也が腰を突き上げた。
急激に絞めが強まった。

ハグッゥゥウッハァッッ!!

どうだ!ギブするかっ?ァァアアァ??

ノウッノッッゥウ!!!

ギブしねーならオトスかんなっ!
ァァアアアアア????!!!

左腕が伸びきる。
首がまるで万力に絞められるように圧迫された。

オオウラァアアアアアアア!!!!!ッッッ!!!!

ハッハッハァアアァァア!!

ウォラッ!オウアラァッ!!ウリャッァァッッ!!

カハァッ!ハァッ!ハッ!

雅也の太股に筋肉のスジが走る。

ラァァツッッァアアアアア!!!!!!!

カッッハァッ!!

勇太はハロゲンランプの光りが消えるように感じた。




道場ではおのおのがプロレスをしていた。
勇太は道場の隅で目を覚ました。
そばに雅也がいた。

ギブしなかったな。

雅也は言った。

ウッス。

勇太は遠くを見ながら言った。

雅也は背後にまわりスリーパーを軽く掛けた。

オレの勝ちだな?

オレの負けっす。

勇太は応えた。

3日間続いた試験期間も終了した。採点優先のため今日も部活は休みだった。


今日はヒマか?

帰り道、淳に勇太が声をかけた。

英語はどーだったよ?

オレに勉強のことは聞くなって!

勇太は笑った。

孝司ンとこも今日で試験が終わりなんだってよ
オレんちに来るんだけど、こねーか?



部屋にあがるとすでに孝司がいた。孝司はドコかで見たような感じで、勇太の敷きっぱなしのフトンの上にドカリとアグラをかいて、プロレスビデオを見ていた。

カイエンタイってイイヨナ。

孝司はニッ!と笑った。


仁太郎先輩は元気か?

勇太が聞いた。

オウ、オウ。元気ゲンキ。

プロレスしてんのか?

淳が聞いた。

ヤッテルよお。週1ペースでガンガン!
もうオメーラの相手なんかしてらんねぇ!

孝司はテレビから目を離さず言い放った。

オーシ!相手してやんぞ?

淳の言葉に振り返った孝司はニカッと笑った。


淳も均整のとれたイイガタイになってきていたが、やはり孝司のソレとは比較にならなかった。


出方をうかがう淳。孝司がタックルをかます。

倒れた淳の左脚にアキレス腱固めが極まる。

ッシャッ!どうだ!

まだまだ二人の表情には余裕があった。

淳は反転してロープに逃れようとした。孝司はその動きを利用しそのまま片逆エビに固める。

ッッアアガぁ!!グッッッツ!!

ギブッッ??

孝司はアキレス腱を極めるカタチを保ちつつ、右手は淳の膝を支えて体勢を固めていく。ギブしてもおかしくないカタチだった。

ッッああっ!!ロープッッ!!ロープッッ!!

勇太が孝司を止める。孝司は直ぐに技をといた。

孝司は余裕の表情。淳の顔は少し曇った。技の重みが増したように感じられたのだ。

ウッシャア!!

淳は自分に気合いを入れると、低空のドロップキックを放った。孝司の膝を狙った。巨体が崩れる。

淳はすかさず孝司の右脚を自分の左スネに巻き込む。

ックッッツツ!!

淳の右脚が孝司の右足首をフック。淳の足4の字が孝司の余裕の表情を吹っ飛ばした。

ヌウウがあ!!ガアアッツ!!!!

ッッラァぁっっ!!ギブかっ???

淳は孝司の左脚の引っこ抜くように二度三度と上体を仰け反らせた。

アアッッうう!!ノー!ノウ!ノウ!!!

孝司はカラダを揺さぶらせ一気にロープを目指した。二人に余裕の表情が消えた。

オウオウ、アツクなってきたなぁ。

勇太は楽しくて仕方がないようだった。


チカラ比べ。力は孝司が上回った。密着を切ってバックをとる。背後から長い左脚が淳の左脚を絡めとる。流れるように長い左腕が淳の右脇をむしりとるように回った。

ッッアアアアー!!ッゴォッッツツツ!!

コブラでキメテやるぜっ!!!

ガチッと極まったコブラツイスト!

ひとまわりもふたまわりも孝司のガタイが大きくなる。
長い右腕が淳の鼻先でクラッチ!!

フッガァァーー!!ガァアッッツツ!!!

オレのコブラは仁太郎先輩もほめてくれたんだぜ!!

淳を押しつぶすように絡み付くなコブラツイスト。

ッラァぁ!!ギブか?ギブしろよ!!!

ノッ!!ノウッ!!!

ッッラアア!!ンッッナロッ!!!

孝司は揺さぶる。

ッッアアアアっっ!!ノウ!!ノーウウッ!!

完璧じゃねぇ??!!

孝司は急激に引き絞る。

ガァアアッツツ!!

ギブだな!!ギブ??

孝司はクラッチした手を離して、淳の右脇腹に拳を入れた。それが余計な攻撃だった。淳は力を振り絞り、孝司を腰で投げ飛ばした。

前のめりに崩れる孝司。
淳は孝司の左脚を両股で挟み込む。左足の甲を自分の股間に固定すると、背後から孝司の顔面を絞りにいった。

ッッグッハァ!!ガッハッッフウウ!!!!

STFだ。

ハッ!ハッ!ハッ!ギ、ギ、ギブかッ??

息の切れている淳。

フッがああぁぁ!!ノ、ノ、ノゥッ!!

技を極めたまま淳は呼吸を整えた。勝負に出る。淳は孝司の顔面を固める両腕を離した。一息つく孝司。

淳の右腕が孝司の右腕を絡めとる。
淳の左脇が孝司の顔面を固める。

ッッガアア!!!ガガガアァアアァアア!!!!

ンンンッツッツツツ!!!!!

孝司の背中で淳の両手が完全にクラッチ。

ッッッウウウウアアッツ!!!

脚を固められたままのドラゴンスリーパーだ。

ッラァァアアア!!!ギブッ??!!

ハフッっ!!ガフッッ!!ッノッッツツッ!!!

自由な孝司の右脚がバタつく。自由な孝司の左手が淳の左腕を掴む。

淳は左腕で固めた孝司の顔面をカラダ全身で絞り上げる。

ッッッグクフッッフッウ!!!

ギィブゥッゥウウ???

ッフッヌゥウノッノノ!!!

孝司の首筋から汗がしたたる。二人の汗だ。
ギリイギリイと音が聞こえそうだ。

フヒィヒィイ

孝司の息遣いが聞こえた。

ウッシャァッッアアアアア!!!!!!

淳は一気に絞り上げる。
反り上げる反り上げる!!!

ギィブアッッップウゥウッッ???

反る反る反る!!!

ッッブアッッップッッツツ????!!!!

反る反る反る反る反る反るッッゥ!!!!!!


パンパンパンと孝司の左手が淳の左腕をたたく。

ギブだな!まいったなっ!!!

パンパンパンと地面をたたく。

ギブアッップかあぁ??
あぁあああぁああ???!!!

ッッッブウウ!!!
ッギィイッブウアッアアァァアアア
ップウッツツ!!!



やっぱツエーわ。

孝司は言った。

オレのコブラどーだった?

イッテーよ。

孝司はニッと笑った。
秋の気配が一杯だった。

オレんちで勉強教えてくれよ!

勇太が淳を誘った。試験が近いのだ。

勇太んち行ったら遊んじまうだろ?
イヤだよ!


そんなこんなで淳は強引に勇太の家に行くことになってしまった。途中、竜二も合流した。

ますます遊んでしまうな、と淳は思った。


勇太の部屋は相変わらずオトコらしい部屋だった。かなりのチラカリようだ。乱雑に放り出されたプロレス雑誌。最近好きなのであろう格闘家のポスター。敷きっぱなしのフトン。勉強机には教科書が積み上がっていた。

ドコで晩強すんだよ?

淳はなんだか可笑しくなってしまった。

竜二は早速ビデオラックをのぞき込む。

昨日の新日のプロレスとってないのか?

あるある!ビデオに入ったままじゃねぇ?

竜二は慣れた感じで勇太のフトンに寝っ転がると黙ってプロレス観戦を始めた。

勇太は呆れた感じで竜二をながめつつも勉強机に勉強する場所を確保した。


淳は数学の教科書を開いた。
勇太は理解は早いのだが飽きるのも早かった。
そのうちに竜二のほうが気になりだした。

まるで見計らうかのようにテレビの中では棚橋のSTFががっちりと極まる場面。

勇太ぁ!STF掛けさせろやぁ!

竜二はフトンの上から勇太を呼んだ。

まったく竜二はしょーがねぇなぁ
勉強してるっていうのによ!

勇太は楽しそうに教科書を閉じた。


勇太がフトンの上に腹ばいになると、竜二は自分の右脚を勇太の左脚にからめてSTFの体勢に。

ウラッ!ギブか?

なんか違うんだよなぁ。

勇太は竜二に技を解かせると、竜二を腹ばいにさせて自分の右脚を絡めていった。

そんでっ!顔面を絞るんだよっ!

っっぐうぅぅぅーー!!
イテテテテ!!ギブギブ!!

はえーよ。プロレス技は痛みで覚えるんだよ!
オーゥラッ!!

があーーーー!!!ギブギブギブ!!!

勇太は竜二を解放した。

二人はすでにかなりの汗をかいていた。
勇太は腕で汗をぬぐいながらまた勉強机に戻ってきた。
黙っていられないのは竜二である。

竜二は勇太をフルネルソンに捕らえて、フトンへと連れ戻した。

プロレスしようぜい!!

淳はヤレヤレと見守ることにした。


二人とも汗でぬれたTシャツを脱ぐと、ジーンズだけになった。勝負をつけたいのは勇太よりも竜二のほうだった。

逞しく黒く焼けたカラダが勇太を襲った。
首投げで勇太をフトンに叩き付けると一気に逆エビを狙った。

ギブか!!

いいカタチの逆エビだった。ベッタリと安定した足腰が勇太の腰を大きくしならしていた。

っっっぐうっ!!!ノウっっ!!!

ヤベーんじゃねぇのかっっ?ギブかぁ?

っっぐぅぅぅ!!!アメーんだよ!!

勇太は身をよじらせるようにバランスを崩して脱出。
しかし、逆エビの効果は残り、次ぎの攻撃に遅れが出てしまった。

竜二はすかさず勇太に馬のりになると勇太のアゴを引き絞った。

どうだ!キャメルだぜっ!

くぅっ!!

ギブしろ!まいったか!!

竜二のキャメルではまだ勇太の腕が自由だった。
勇太は右腕で竜二のクラッチを切りにいく。

まだまだ勉強不足だな!!

抜け出した勇太は竜二に胸にケリを一発ブチ込んだ。
ひっくり返った竜二に逆エビ!!

ガァァァァァアア!!!!

どうだ!!これが逆エビの痛さだゼッ!!!

勇太は自ら逆エビを解くと今度はキャメルの体勢に!!

オーウラッ!!これがキャメルだっ!!!

勇太のキャメルクラッチは完璧だった。
竜二の両腕は完全に勇太のももの上で固定され逃げられない状態だった。

ガッ!ガッ!!!

勇太は二度三度と竜二のカラダを絞り上げた。

竜二ィ、まだ終わりじゃねーぞぉ!
覚悟しとけよぉ!!

勇太はキャメルを解くと竜二の右腕をつかんだ。
スルリと勇太は竜二の首と右腕を両方の脚で挟み込んだ。

竜二は勇太の部屋の天井を見上げるカタチになった。

今日は絞めるゼッ!!

勇太はガッチリと三角締で竜二を固めた。

オラァ!まいったかっ!!

グッヒィィィ!!ノウッーーーー!!

竜二にも意地があった。
簡単にはギブアップしたくなかった。

勇太は竜二の右腕を引き絞る。

クゥッッッ!!!

降参かっ?アァッ??!!

竜二は必死に左腕で勇太の脚をほどこうとするが、勇太の絞めは緩まなかった。

勇太は自分の左脚をさらに深く自分の右ふくらはぎの下へと押し当てる。絞めが一気に強まった。

竜二ィ!ギブするか?もう聞かねーからなっ!!!!

言葉通りに勇太は絞り上げた。

竜二の右腕は伸び上がった。
ばたつかせていた脚も緩やかになった。

ガァァッァッツッツァァァアアアア!!!!

ウオォォゥラァッァアアア!!!!

必死にもがいていた竜二の左手がパタッとフトンに落ちた。




どーよ!オレは強いだろ?

上半身ハダカのままの勇太は竜二を見送った。

勉強教えてくれてサンキューな!
また教えてくれよな!


淳と竜二は途中までいっしょにゆるゆる歩いた。
星で空がいっぱいだった。
演劇部の演目が始まり、ざわめきが落ち着いてゆく。

腰をさする淳がいた。勇太が笑う。格技室翔が入ってきた。

あ、ちょうどイイトコにいたっす!

孝司だった。

あ、チワッす!仁太郎先輩!!

勇太が二人を迎えた。

二人は学祭の見物に来たようだった。

プロレスは終わっちゃったんすねぇ。
残念す。

孝司は仁太郎を見た。仁太郎はうなずいた。

翔先輩が強いって言ったら、先輩が見たいってさ。
だから来たのにな。

相手、してくれませんか?

仁太郎は翔を見据えて言った。
翔の目の色が変わった。

オレも強そーだなってね、思った。


三人が見守るなかで、翔と仁太郎がマットに立った。
孝司は翔の強さは知っていたが、日々のスパーリングの仁太郎も知っていた。

勇太はすでに1度、仁太郎と身体を合わせたことがある。その強さは知っていた。オモシレー!!

孝司よりも大きなカラダをしている。翔だって鍛えているのだが、比べると断然、仁太郎がデカかった。

仁太郎が動いた。レスリング仕込みのタックルは鮮やかだった。翔は軽く飛ばされた。脚を攻めにいく仁太郎。スタンディングアキレス腱固めだ。

キョーレツだったゼッ!!

勇太が翔の替わりに応えた。翔は無言で耐えていた。

仁太郎は右腕で翔の左脚を極めたまま、自分の左脚で翔の残りの脚をふみつけてマタ裂きの状態に。そして流れるように膝十字へ移行。

ハッ!ハッ!ハァア!ハッ!

仁太郎の息遣いが道場に響く。シビアなプロレスだ。

極めあぐねた仁太郎は膝十字を崩し、マット中央でファイティングポーズ。

翔は素早く立ち上がるとドロップキック。仁太郎の胸板にクリーンヒット。不意をつかれたせいもあり、仁太郎はマットに沈んだ。

翔は鎖骨のすぐ下あたりに鋭いエルボーを2発、3発とたたきこんだ。大の字の仁太郎の左腕にニードロップ。すかさず腕ひしぎの体勢に。

仁太郎も逃げる。極められたら終わりだ!そんな感じだった。

仁太郎は脚を翔の首筋を絡めるように脱出。形勢逆転。
仁太郎の右脚が翔の左脚に絡んだかと思ったときにはグランド卍が完成間近だった。

ヤベーよ!くらったらっ!

勇太の興奮した声が響く。

仁太郎の左腕が翔の右腕のスジを伸ばした。完璧なグランド卍だ。

ハッ!ハッ!ハアァ!ハッ!

仁太郎はグイッ!グイッ!と締めていく。

孝司がマットに飛び込みレフリーをかってでた。

ギブっすか?翔先輩!!

翔は応えようとしない。仁太郎は無言で首を狩るように左脚で圧迫していく。
仁太郎の太いふくらはぎの筋肉が翔の首筋で山のように盛り上がる。

ギブっすか?!

孝司は翔のギブだと思った。仁太郎も勝ったと思った。仁太郎の卍からは逃れられないはずだ。

ノーーーーーーーー!!!

翔は動く左手で、自分の首に巻き付く仁太郎の脚をほどきにかかった。無理に思えた。

瞬間、仁太郎の叫び声を上げた。ちょうど、アキレス腱固めのような感じで抜けられたのだ。仁太郎の勝ち焦りだった。

今度は翔がマット中央でファイティングポーズ。挑発的だった。不用意に立ち上がった仁太郎に翔はブレーンバスターを挑む。持ち上がるようには見えなかったが、翔は見事に抱え上げると、強烈に垂直にマットに落とした。

翔は仁太郎の両足を抱え込んで、おもいっきりボストンクラブ。ガッチリ入った。

仁太郎!ギブするかぁ?

翔は腰を深く落とした。

ガッッッツツッッ!!!!

仁太郎もロープを目指す。返すことは出来ない。ロープを目指す。

ロープ!!ロープっす!!

孝司は翔の背中を叩く。
翔は逆エビを解放。仁太郎は動かない。
翔はすかさず仁太郎の両足を持ち、マット中央へ引きずり込む。

仁太郎の体勢を反転。翔の左脚が仁太郎の右腕を捕らえた。翔の左足膝裏が仁太郎の後頭部を捕らえた。

ガハッ!!

短く仁太郎の息が漏れた。
翔の両手が仁太郎の左腕を固めた。

うわぁっ!!ストラングルホールド!!!

勇太は叫んだ。

仁太郎!!ギブかああ!!あぁ!!

仁太郎は両足をバタつかせるが、その動きには元気がなかった。

先輩!!ギブっすか?

ノウ!ノウ!ノウ!!!!

翔は更に左腕を絞り上げる。
同時に翔は重心をじょじょに落としていく。仁太郎は首がメリ込むような激痛に耐えていた。

ウオラアァア!!仁太郎!!ギブだなぁ?!
ギブだなぁ?ああぁぁ??!!

グゴッホッ!!!

翔先輩!!ギブです!ギブです!!

孝司が翔を止める。

翔は瞬間、技を緩めたのだが、仁太郎の無言状態をみて、更に絞り上げた。翔は更に腰を落としていく。仁太郎の顔は、自分の盛り上がった胸筋につくぐらいの勢いだった。

グウゥッツハッアァッツッッ!!!!

仁太郎!参ったのかあ?ギブするのかあっ!!!
あああああぁぁぁぁ!!!!?????

仁太郎の右手が、翔の脚で絡めとられた右手が、力なくマットを叩いた。

ギブっす!ギブっす!!!
センパイッ!!ギブアップですっっっ!!!

孝司は翔の背中を夢中でたたいた。
翔は技を解いた。
仁太郎は仰向けに倒れた。翔はそのまま座りこんだ。
二人とも汗だらけだった。

ハァ、ハァ、ハアァア、ハア。

二人の呼吸が不思議と同じだった。

サイコーっすよ。翔先輩。

仁太郎は天井を見上げて言った。

ギブアップっすよ。翔先輩。

翔は仁太郎の腕をとって立ち上がらせた。

参ったっす。翔先輩。

翔は仁太郎の首筋を揉みほぐした。


スッゲー!!スッゲーよ!!!

勇太は一人叫んでいた。
淳はやっぱり兄貴はツーエーや、と思った。
コーナーポストに見立てた跳び箱から淳めがけてミサイルキックを放ったのは体操部の由貴だ。2年生の由貴は柔道部のプロレスにはあまり顔は出さない。

まともにくらった淳は後頭部を痛打した。
舞台を見つめる観客の生徒たちは大きく盛り上がった。
深くクッションが敷き詰められたマットに大の字になる淳を見て、由貴はすかさずポストに立つ。

観客は由貴に注目した。
背面から淳に向かって飛び込む由貴。
バッチリと淳をボディプレスに沈めた由貴は高く両腕を上げ、声援に応えて退場。
淳は今だ、たてないでいた。


 オウ!盛り上がったよな。

勇太は負けた淳に声を掛けた。

 やっぱ飛び技がバシッとキマルとカッコいいな。

淳には勇太の笑い顔が気に入らない。


道場に由貴が現れた。
勇太は駆け寄るとさっき淳に話したことを、また楽し気に話した。淳は気にいらない。

 由貴先輩!もういっちょお願いします!

 なんだよ、いま終わったばっかりだろ?
 なに言ってんだよ。

由貴には、なんとなく察するものがあった。
舞台でのプロレスは八百長とまではいかないが、盛り上がるように飛び技を中心にするよう、企画の段階で、翔に言われていたからだ。


道場には三人。
勇太の見守る中で、二人の戦いは始まった。
遠くで、次ぎの演目の合唱部の歌声が聞こえてきた。
ポストもロープもないマットに立つのは由貴と淳だ。

さすが体操部の次期主将といわれる由貴の身体は引き締まっている。特に、大胸筋の発達は目を見張るものがある。孝司の筋肉はただデカク付けてるだけの印象だが、由貴のモノは毎日の体操部の演技をとおして自然に付いたものだけあって、グワッと迫力があるように感じられた。

淳が先に仕掛けた。
組み付くと脚をはらいにいく。このあたりは淳に分があった。なんどめかの攻撃で、由貴は膝を崩してマットに倒れた。

淳はグランドでの勝負を挑んでいるのだ。
まずは、由貴の左脚にアキレス腱固めを掛けた。

 ッラァぁ!!どうっスかあ?

由貴は痛みにこらえながら右脚で淳の背中にキックをぶち込んだ。

両者スタンディングポジション。
今度は由貴が仕掛けた。キックの連打だ。的確に淳の脚のモモ裏をねらいさだめた攻撃だった。

たまらず、淳はマットに転がった。由貴はジャンプしてガラ空きの淳のハラに膝を落とした。

 オレだってグランド好きなんだぜ。

由貴は淳の右腕を取ると、デカイ大胸筋で淳を押さえ込み、ストレートアームバーに固めた。ビーンと張り詰める前で淳は踏ん張る。極まればギブだ。

由貴は淳の防御が崩れないと分ると、立ち上がり、淳も立つように挑発した。

両者スタンディングポジション。
由貴はソバットを連発。たまらず淳はマットに沈む。

 オレのフィニッシュはサソリだ。

由貴は淳の両脚をサソリに固める。
淳はすでに戦意喪失状態だった。

 ヤバイ!キマルぞ!淳!!

勇太は注意をうながすが。

淳の両脚が由貴の前でクロスされている。

 サソリいれるぜ!!

由貴は胸を張り上げ、淳を逆立ちさせるほどに持ち上げた。淳はもうされるがままのグンニャリとした感じだった。

 ゥッッラァァアアアア!!!!

 ッッッガアッッはアアーーー!!!

サソリ固めが入った。
淳は今さらながらに痛みで目指めた。しかし、もう遅い。ロープであるマットのヘリを目指すがことごとく引き戻された。

その度に激痛は強まった。

 ユウタぁ!淳はギブするのかぁあ?

由貴は目の前に垂れた前髪を反動で戻しながら勇太を見た。その動きすら、淳には痛みに替わった。

 淳!ギブしろ!完璧だぜ!サソリ!

 ノウッ!!

淳はそれでもガンバロウとする。ロープを目指した。
由貴は執拗にサソリをほどこうとはしなかった。

由貴はサソリを掛けたまま立ち上がると、マット中央に淳を引き戻す。

 ウラアァァアア!!!

 ッッッグゥハアアァッァア!!!

 淳!ギブだろ?もう、納得したろっっ?

由貴はそのまま腰を少しあげると勇太を見た。ギブの合図がないことを知ると更に絞りあげる。
由貴の右腕でまとめてロックされた淳の両脚はアキレス腱固めの状態だ。強められた力が集中した。

由貴は腰を深く落とす。

 ッッッガアアアアアーーーーー!!!!!!
由貴の大胸筋がバーンと張る。

 ッッッアガぁアアアアア!!!!

由貴が天井を見上げるぐらいの勢いのあるサソリ固めだ。

 どうぅだあっ!ッァア!!ッァァアア??

 ップゥッゥッッ!!!

 ンッァァアアァアア??

 アアアッックウゥウ!!!
 ギブッス!!
 ギブアップッスッッゥゥスゥウウ!!!!!

由貴はサソリをほどくと、うつぶせに倒れる淳のケツをバン!と張った。

なんだか笑っていた。

 バチバチなプロレスオモシレーんだけどなあ!
 来年はこんなんで学祭やりましょうよ!

勇太は由貴にタオルを渡しながら言った。
孝司の学校も明日から2学期がはじまる。

レスリング部の格技場は熱気がこもっていた。

夕日が差し込む頃、センパイの号令で練習は終了。孝司もホッとする瞬間だ。

孝司はシャワー室に飛び込む。

 孝司! センパイがよんでるぜっ!

孝司は素直に格技場に戻った。

待っていたのは仁太郎センパイだった。

 センパイ、どうしたッスか?

 オウッ!悪いな
 プロレスやりてんだよ

鍛えたガタイが汗でテロテロに光っていた。
仁太郎は無口なセンパイだった。
話しをしたことだって、ほんの少しだ。

正直、孝司はひるんでいた。
勇太との勝負を見ていたせいもある。
勇太とのプロレスはまさにガチガチな感じだった。

 いいッスよ!相手してください!!

仁太郎は少しほほえんだように見えた。


二人はサークルの中央に立った。レスリングスタイルだ。仁太郎は二年生の赤。孝司は1年生の青だ。

孝司もデカイが、仁太郎は更に大きかった。すでに180はありそうだ。仁太郎は自分の胸を叩くように筋肉をほぐした。

 センパイの胸すげぇデカイっす!
 いいカラダしてるッスねー。

孝司はしみじみ言った。今まで、思っていても言えなかったことだった。

仁太郎はうすく笑いながら、孝司もスグにデカクなるさ!と言った。

 

プロレスはタックルからはじまった。
仁太郎のタックルは基本に忠実で、バランスのとれたものだった。

孝司は腰にまで手がまわらない。そのうちに軽々と持ち上げられた。そのままマットに打ち付けられた孝司はそれでも受け身を取っていた。

仁太郎は孝司の胸にエルボーを落とす。体重ののった重いものだった。すかさず、孝司の右腕を両脚で挟み込む仁太郎。腕ひしぎが極まるか?

孝司も両腕をクラッチして仁太郎の力をかわす。仁太郎はあわてずにキーロックの体勢に。

 ッッッー!!

孝司のチカラコブの間にはゴツイ仁太郎の腕が挟み込まれ、太く締まった、左脚が強力に締めていく。

仁太郎は何も言わなかった。
孝司の表情を見ながら、技をギリリ、ギリリを強めていった。

 クッッッゥウウ!!!

ギブしない孝司。
仁太郎は自らキーロックをはずす。
スタンディングからの再開である。

組み合いから、孝司は瞬間に仁太郎の左脚と右腕を絡み取っていく。得意技のコブラツイストだ。

 ギブっスかあ??

仁太郎は少し表情を曇らせただけだった。
孝司もだんだんとヒートアップ。先輩、後輩の関係が薄らいでいく。ギブアップさせたい願望が強まっていく。

左脚の固定はバッチリだった。首を極める孝司の両腕のクラッチも完璧だ。更にチカラを込める。

 ゥラアァ!!ギブっスかあァア!!!

仁太郎はクルリと孝司を腰で投げ飛ばした。
得意のコブラツイストがあまりにも簡単に返された孝司は少なからずショックだった。

孝司が立ち上がるところに、胸に強烈な痛みが走った。仁太郎のドロップキックだ。ゴロンとひっくり返る孝司。

次ぎの攻撃を恐れて、孝司はすかさず立ち上がると、仁太郎はファイティングポーズで挑発。

孝司は突っ込んで仁太郎をグランドに持ち込む。転がるように足4の字を極めた。

しかし、不完全に入ったままだ。
孝司は絞り込むことも出来ずに反転して返される。
仁太郎の攻撃が速くなった。

孝司の両脚をリバースインディアンデスロックに固めた。

 ッカァァアアアハァァアア!!!!
 
孝司のロックされた両脚のすきまにねじり込まれた仁太郎のふくらはぎは、ボコっと張っている。それだけでもキョーレツなのに、仁太郎は体重をのせてマットに受け身をとる。

 アッがアーーー!!!!

2度、3度と仁太郎の体重が孝司を痛めつける。
ギブ寸前の孝司だ。

ロックされたままの孝司の背後で、何も言わない仁太郎のうかがう気配が感じられた。更に、もう1発の衝撃!!!

 グゥッッウウッハッッ!!!!

スッと孝司の脚がほどけていった。
瞬間、孝司の両腕はブットイ仁太郎の太ももに固定され、あっという間にアゴも固められた。ヤバいと思った瞬間に上半身が反り返されていく!

キャメルクラッチだ!!

 ッハッグウッゥハアアァッッッ!!!!

仁太郎の両足の裏はペッタリとマットに据え付けられ、ビクともしないようだった。孝司のアゴを極める仁太郎の手は大きく、ググッと引き絞る。腰には仁太郎のケツがドッカリと打ち付けられたようだ。グイッと孝司は反っていく。

 ’’’’’’’’!!!!!

仁太郎はキャメルで極める気のようだった。
孝司もなんとか脱出を試みるのだが。
孝司に馬乗りになる仁太郎の呼吸が背後で聞こえる。
ギブアップしない孝司に仁太郎の攻撃は終わらない。
ギリイ、ギリイイと強烈な痛みが吹きあがる。

格技場のハロゲンランプが二人の汗みどろの姿を照らす。孝司の汗がタラタラと不自然に反りあがった胸をつたう。

チカラが一瞬弱まった。
仁太郎はアゴを極めていた持ち手を入れ替えた。
仁太郎は一気に引き絞る。
孝司のカラダがバリバリと音をたてるようだ。

 ッンンッツハアッッッアアアア!!!!

ヘソが見えるぐらいまでのキャメルクラッチ!!!!
孝司は右腕で仁太郎の太ももをタップ!!

 ギィイイブゥウッす!!!
 ンギィイブゥウアァァッップゥゥウ!!!
 ッスゥウ!!!

タップ!タップ!!タップっ!!!!



孝司はグッタリとマットに倒れたままだ。
仁太郎はかたわらにアグラをかく。つりパンのヒモをおろすとムネキンにはツブツブの汗水。

 マジで孝司とプロレスできてサイコー!
 
孝司はヨロヨロと立ち上がり、仁太郎に向き直る。
仁太郎にうながされ、孝司もマットにアグラをかく。

 ツエーっす!

仁太郎は笑う。

 今度はオレがセンパイからギブとりますから。

 オウ!!

仁太郎は孝司を立ち上がらせるとシャワー室に向かった。

 コブラは効いたな。

 マジっすかあ?

二人は笑ってシャワーを浴びた。
夏休みの終了が明日に迫っていた。
かといって、部活動は毎日のようにあった。
柔道部の部員たちも、日々、熱のこもった道場で、練習をし、プロレスをしていた。


 オースッ!! 相変わらず、アッチーな!!

それは、サッカーユニフォームの雅也だった。

 スッゲーな!金髪かよ!

翔は雅也の髪をクシャっとつかんだ。

 チョッとイメージチェンジだろ?
 サッカー選手?って感じしねぇ?

雅也はニカッと笑った。
 
 オーシ!プロレスするぞぉ!!
 オッ!見たことないのがいるじゃん。誰よ?

見つかったのは竜二だった。

 アレッ?ラグビー部のハンパもんじゃねーか?

 最近はちゃんと出てるっス。

真剣に竜二は応えた。なんだか雅也はおかしかった。

 ヨシッ!!今日は竜二とプロレスするかっ!!

金髪の雅也は練習を終えてきたばかりのシャツを脱いだ。全身がよく焼けていた。
雅也は軽くストレッチをする。

竜二が不用意に近寄った瞬間にプロレスは始まった。

組み付かれた竜二はダブルアームスープレックスで軽々と投げられた。
体格のいい竜二を投げる雅也の脚腰は本物だ。
びっくりした竜二は大の字で動きが止まってしまった。

 オイオイ、オレの逆エビをくらいたいってかあっ!!

雅也は竜二の両脚を両脇で抱え込むと、一気に反転。
逆エビ固めだ。

 ガアアアーーーーー!!!!!!!
 
大股が開いた竜二の両脚は雅也にコントロールされるままに反り上がった。

 ッラァア!!ッラァぁ!!ギブかあ?竜二!!
 
 ううゴオ!!!ガぁ!!まだッス!!

 オラオラ!!オレにも技、掛けてみろや!!

雅也はグィッグィッと竜二の腰を攻めた。
竜二は腕立ての体勢で技から逃れようと懸命である。

雅也は技を解いて、竜二を立ち上がらせた。

 プロレスなんだぜ!先輩だからって気にすんなよ!!

雅也は竜二に張り手を放った。
竜二も負けじと張り手。

竜二はすかさずバックをとると、投げっぱなしのジャーマンで雅也を飛ばした。

 ブッグぅぅ!!!

 センパイ!!キメるっすヨ!!

雅也の左ふくらはぎを抱えたまま、竜二はマットに倒れ込む。

 ッッううアアアアーーー!!!

竜二の左脇に挟まれた雅也の左脚に激痛が走った。
アキレス腱固めだ。
 
 ギブっすか?

 ッッ!!クぅっ!!ノゥノゥ!!

 これでどーっスか?

 アアアッッーー!!ツウウフウゥゥーー!!
 
竜二は左手首をゴリゴリと動かして、雅也の脚を圧迫した。

 アアアッッ!!イッテッんだよっ!!

竜二は叫びながら、強引に反転。勢いで技を解いてしまった。
素早く立ち上がったのは雅也だったが、かなりの痛さだったらしく、左脚を気にしていた。

アキレス腱固めの激痛にキレた感じの雅也は、真剣な顔だった。

 竜二にもオレの4の字キメてやるかんなあ!!

クルリと竜二の左脚を自分の右スネに絡める雅也。
足4の字に入る雅也のスピードは絶品である。

 アッ!!ッッッああっっ!!!

 ウラァア!!イテーべ?

竜二はエスケープを試みるが、固められた雅也の4の字はまた格別な痛みがあった。

4の字にロックされた自分の脚の向こうに勝負に真剣な雅也の顔が見えた。

 ッラァ!!ッラァぁ!!ギブかあ!!

 ッウウックぅぅ!!まだッス!!

雅也の迫力ある大腿部がさらにリキみあがると、4の字が更に絞り込まれた。

 どうだッァア!!ギブるかッァ!アァッ!!?

 アツウグゥぅ!!まだまだッス!!!

雅也は竜二の脚を抱えたまま、腰が浮き上がるほどに突きあげた。

 ギイィイブゥアップゥ???
 ギィイイゥブブゥウッッアッッツプッ??
 ギブアッップッッッウ???

 ガアアーー!!!!ギブっスッ!!
 ギブアップっスゥゥ!!!



4の字を外す雅也。

 でも、ちゃんと練習出てるッスよぉ。

何だか雅也はおかしくて、竜二の頭を抱えた。
夏の暑さはまだまだ続いているというのに、夏休みの終わりが見え始めていた。
勇太はレスリング部の合宿に出かけていた。
偶然、孝司の行く中学とも合宿場所が同じであった。
孝司の学校にもプロレス好きな奴がいるもので、やはり、就寝前のひとときはプロレスごっこだった。

レスリングの基本を身に付けているツワモノたちばかりである、「ごっこ」といいながらもそのプロレスは激しいものだった。



 でよお、オイ!聴いてんのか?
 で、孝司を腕ひしぎで極めてやって、
 ギブらせてやってたら、挑戦されたんだよ。

 孝司の先輩で2年の副部長ダゼ?
 そーそー、孝司よりガチっとマッチョなんだよ。
 ナンっつったかなあ?仁太郎さんだったかな?
 ンで、プロレスしたんだよ。
 ヤッパ、コエーよ。知らない人だしな。
 もう、ムネキンなんかバーンって感じだしよぉ。
 まあ、レスリング部どうしだから、
 タックル始まってな!

 そんで、まずはオレが技を仕掛けてみたんだ。
 アキレス、アキレス!!
 オゥ!極まったゼ!
 でもよー、なんか仁太郎さんはシブイ顔してよ、
 逆にオレをアキレスに極めるんだよ!

 ッテーヨ!!マジで!

 なんか動きが特別速いわけじゃねんだけどさあ、
 極めるんだよなあ!
 ウメンだなあ。
 バーカっ!スグにロープだっつーの!!
 もうそれから先輩の練習台みてぇなもんだぜ!
 逃げられねんだ。

 まんま転がるように逆エビだろ?
 デケェからつぶれたぜ!
 
 そんで解放されてキャメルだろ?
 焦らしなし!って感じでよ!ゴリゴリだぜっ!

 ふらつくオレを立ち上がらせてよ!
 ドロップキックだぜぇ!?
 重量級ダゼェ?ふっとんじまったぜっ!

 オレもこのままじゃムカつくしよー、
 スキをついて絞めにいったけどな。
 ケッコウ、マジ極まりでイケルか? 
 なんて思ったけど、
 先輩オレを背負ったまま立つンだぜぇ?!!
 そのまま倒れ込むわけよ。
 バッグドロップ並みの衝撃!

 なんかもう
 技の名前なんかわかんねぇ関節バギバギでよぉ!
 脚極められて、
 腕極められてボロボロになったとこでよ!

 首に先輩の脚が掛かってよ、
 グランド卍の完成よォ!!
 ガマンできネーって!
 ギブギブだって!!
 なんか筋肉に絡まれたって感じだって!!
 ギシギシってゆーかあ、
 ミシミシってゆーかぁ、な。
 壊されるかなあ?なんてな。
 先輩はムゴンなんだもんなあ、コエーヨ!!
 ナンカ気迫のある呼吸だけが聞こえてきてよぉ。
 グイッグイッて卍が強烈に極まってくんだもんなあ。

 ギブッス!!ギブッス!!!!ってなもんだよ。
 翔先輩ともイイ勝負じゃねーかな?なあ?
 キーテンのかあ?
 


淳はしばらくプロレスしてねーなあ、と思い、ケータイを放り投げた。
暑い空気の充満するベッドに横になった淳はツマンネーナアと天井を見上げた。
夏休みがまるで、いつまでもあるような感じだった。
太陽のパワーは全開で、容赦のない光線の放射の盛夏を迎えていた。

勇太が竜二を孝司の家に誘ったのは、そんなある猛暑の日のことだった。

アスファルトはグニャリと柔らかく、歩く足跡が残るぐらいに感じられた。


 オーウ!何だよ、二人してさあ!

 アハハハ!!

 涼しそうじゃねぇか!?

孝司は庭に子供用のビニールプールをだして、浸かっていた。青いストライプのパンツをはいて、麦わら帽子をかぶった孝司はまさに夏の子供の姿なのだが、孝司のガタイはミニビルダーであった。

 オマエたちもオレの自慢のプールにはいるか?

孝司に誘われるままに二人はパンツ一丁になると、孝司を引きずり出し、二人で占領してしまった。かといって、そんなに大きなプールであるわけでもなく。

孝司はホースを持ち出すと、二人めがけて放水した。
最大水圧のシブキが二人の身体に当たり、キラキラと水しぶきが上がった。


勇太は眠ってしまったようだ。

小さなプールに両手両脚を放り出し、水に浸ったままの勇太は、高い空をボンヤリと見ていたのだが、いつの間
にか始まっていた二人の勝負が目に入ると、はっきりと目覚めた。

孝司と竜二は青あおとした芝の上でプロレスをしていた。ちょうど竜二が孝司のコブラツイストに耐えている場面だった。

 ウラア!オレのコブラでまたギブするかあ?

 アガアアーー!!!ノウっっ!!ノウ!!

体格的にはドッコイなのだが、孝司のほうが日頃の筋トレのせいか大きく見えた。孝司は竜二の首筋をクラッチした腕で引き寄せる。

 ッラァっっ!!!ギブッウ??!!

 っなろぅぅ!!!っっらぁぁあ!!

竜二は気合いを入れると右腰にのせ上げるように孝司を投げ飛ばした。

ドスンと落ちた孝司の両脚を抱えた竜二はサソリの体勢に。抵抗する孝司のチカラをねじ伏せ、竜二は孝司をサソリ固めに捕らえた。

 ッッシャアアーー!!!!
 孝司っっ!!ギブかあ!!!?あァ!!???

 ッううアアアアー!!!効かねーよっっ!!

孝司は腕立て伏せの体勢で何度も竜二を挑発した。
竜二も負けないで極めにいくのだが、孝司にはあまり効いていないようだった。竜二はサソリを自ら解くと、攻めあぐねてしまった。

 竜二!絞めちゃえ、絞めちゃえよォ!!

勇太の言葉に閃いた竜二は孝司の脚をリバースインディアンデスロックの状態にした。STFにいくような感じだ。

竜二は孝司の背後から左腕を自分の左腕で巻き込んだ。
孝司の目の前に竜二の右腕が表れた。

クラッチ!!技が極まった。
チキンウイングフェースロックだ。

 ゥガッハァッアア!!

孝司の声が叫び上がった。

 ウラアア!!ギブかあ!!

孝司は耐えた。

竜二は固めた脚を更に絞る。
畳み込まれた孝司の脚が竜二の右スネで圧迫された。

 ッううガアアー!!!くううぅぅう!!!

孝司の顔面を捕らえた竜二の腕がググッと盛り上がると、孝司の首筋がエビ反る。


 ナアああっぁぁああ!!!!

 逃げられるかあ!!??

 孝司!!ギブしろ!!完璧だぞ!

勇太は孝司に声を掛ける。

 ギブかぁぁ????はぁぁはぁぁ

 ひぎぃぃ、、くふぅぅぅ、、
 っぅぅノウぅぅぅ、、、のぅぅぅ、、、

竜二は少しの間をとって、渾身のチカラをそそいだ。
ギチギチと極まる孝司の左腕と首。

 ッラァぁ!!!孝司ぃぃ!!ギブウ!!??

 ごがぁぁっっ!!!
 ノォウ!ノォゥッッ!!

竜二は真剣に極めていた。
孝司も真剣に耐えていた。

孝司の自由な右腕が何かを掴もうと、前にのびていた。

 これでどうだあ!!ギィイブアップ!!!!???

 ヘグぅぅぅ!!!!!
 ギィィビィィィ!!!
 ギブぅぅっっ!!!!
 ギィイイブゥゥアッップゥゥッッ!!!!

孝司の右腕がこまかく芝をたたいた。


勇太は孝司のギブアップの姿を見て、プロレスはやっぱいいな、と思った。

二人はそのまま庭に寝転がると、太陽を浴びた。
まだまだ昼間のような夕方の時間だった。


 勇太ぁ、プロレスしよーぜ。

竜二は勇太の部屋に入るなり、ドカリとあぐらをかいた。勇太は週プロをバサリと床に放ると、竜二の目を見た。

 なんか、あったかぁ?

勇太は竜二が見てきたであろうものは分かっていた。
翔と淳のとめどもない熱い戦いを見てきたのだろう。

勇太の問いかけに竜二は応えなかった。竜二は二人の戦いを見て、熱いものがうつってしまったのだろう。勇太にも竜二の気持がなんとなく分る気がした。

 負けてもオコンなよ!

勇太は立ち上がると竜二を誘った。

 手加減すんなよ!

 ばーか、オレはいつでもマジだぜ!


先手必勝とばかりに竜二は勇太に組み付いた。
首を狙う竜二はフロントヘッドロックに捕らえた。
竜二はググッと絞めた。勇太はたまらず、竜二の腹に、2発3発と拳を入れた。

ロックが甘くなったところで、勇太は竜二の右腕を背中に絞り込み、ハンマーロックの体勢に。

 何を見てきたかしんねーけどな
 いろいろあんだろゥ?

勇太はギリリと絞りながら竜二をグランドに持ち込む。
竜二を腹ばいにさせると、勇太は竜二に馬乗りになった。竜二は素早く、腕を取られまいとしたが、勇太の攻撃のスピードのほうが早かった。

流れるように竜二の両腕は勇太のももに挟み込まれた。

 ドーヨ?オレのキャメルクラッチはあ?アァ?

 ッッフッウウガァァアーー!!!!

おどけた勇太の声とはウラハラに、腰の入たキャメルクラッチだった。竜二のアゴはガッチリと極められ、声も出せない状態だった。

 ギブするかあ?これで終わるかア?

 ふひぃぃ、、はひぃぃ、、
 っっうはぁぁ、、まだぁ、、まだぁ、、

竜二は無理矢理に両腕を脱出させると、ロープであるラインを目指した。勇太はキャメルを解放すると、ヘッドロックで竜二を立ち上がらせた。

一瞬のスキをついて、竜二はスリーパーを仕掛けた。
おぶさるかたちで反動をつけて胴締めのまま倒れ込む。
ガムシャラに竜二は勇太を絞めた。

 ッッラァぁ!!!
 ウラア!!ギブするかあ?落ちるかあ?!!

無言の勇太に竜二は胴を絞める両脚に力を入れる。
自分の背中がしなるように極めた。
しかし、勇太は冷静だった。
転がるようにロープエスケープ。場所が悪かった。
素直に技を解く竜二。

 オウオウ、ルールは守れるようになったじゃん!

勇太の言葉にムカついた竜二はケリを放った。
勇太はそれを軽く受けるとアキレス腱固めに極めた。
逃げようとする竜二は片方の脚で勇太を蹴りあげようとした。
勇太はそれも受け止めると、クロスアキレスの体勢に。
竜二の悲鳴が聞こえるが勇太の攻撃はそれでは終わらない。

竜二の股の間に自分の右足を突っ込むと強引に足4の字固めを完成させた。

 これでキメルぜッ!!!

 グッハァァァアーー!!!!! 
 
グリグリと完全な4の字にするように竜二の両足を固定させると、竜二の叫びも大きくなった。

 オラオラオラアアァァ!!!

勇太は背筋の反動で竜二の足を折り込んで行く。竜二も逃げようと思うのだが、身体が思うように動かない。

4の字に固められた自分の脚の向こうに、ギブアップを迫る勇太の顔が見える。口元に笑みを浮かべて、勇太は更に絞り上げた。

 竜二!ギブゥウ???

 っぅはぁぁ!!っうつぅぅうーーー!!!
 ノウノウノウウウ!!

 もういっちょう絞るかぁ??!!

言葉どうりに強まる痛み。
勇太は一呼吸おいてからノビをするように竜二を極めた。更に受け身を仕掛ける!今までとはまた違う激痛が竜二を襲った。何度も何度も勇太は受け身をする。

 ギィイブアアッップウゥッッツ!!!????

 ヌウウがアアーー!!!!

受け身!!受け身!!そして勇太は腰を突き上げ、竜二の両脚を絞り上げる。勇太よりも太い脚が勇太の両脚に絡めとられギリギリと締め上げられた。

ギブをしない竜二にさらに受け身を仕掛ける勇太。ひねるように全身をしならせて4の字を絞る

 っらぁ!!ギィイブウゥぅ?????
 
 ガアッ!!はぐうぅぅぅ!!!
 ギブっっっ!!!!ギブ!ギブッッッ!!!!!

勇太は右腕に大きな力コブをつくって勝利をおさめた。

竜二はまだ色んなことが分らなかったが、両脚のしびれる痛さだけがはっきりと分かった。


今日はそれでいいと思った。
海の民宿から戻ってからも、なんだか竜二はもやもやとした気持ちから抜け出せないでいた。

あの日、あの時、オレはなんだって淳にヤラれちまったんだ?ギブし続けるオレに技を極めまくる淳に正直ハラがたっていた。

 んじゃな、今日、淳ちに行ってこいや。

不満をぶちまけた竜二に勇太はそういった。
勇太はそれ以上のことは何も言わなかった。

竜二は元々素直な性格で、言われたとうりに淳の家を訪ねた。

部屋は熱かった。
竜二はそこで、淳と翔の戦いを見た。

 オウ!竜二ぃ!
 淳と約束でもあったか?
 ちょっと待ってろやっ!

翔はそう言いながらも淳にサソリ固めをガッチリ極めていた。二人とも短パン一丁で激しく汗を流していた。

 オラア!淳!
 竜二が来たぜぇ?
 待たせちゃワリーだろ!!
 ギブアップかあ?っらぁぁ??

 アアアグぅぅぅ!!!
 ノウっっ!ノウっっ!!

 竜二、待ってろよ!!今極めるからなあ!!

翔は右腕に大きな力コブを作るとググッと絞りを加えていく。

 ぐうがアアー!!!
 ガッッハッツ!!

 ッラァぁ!!!淳!ギブかあ!!

淳はサソリをくらいながらもロープである壁を目指す。
壁は竜二がいる方向とは逆であった。
少しずつ淳はロープに向かっていった。

翔はサソリの体勢が崩れたことが分ると、自ら技を解いた。

 そうだ、竜二!淳に落とされたんだってな。

竜二は何だか恥ずかしく、黙っていた。

 恥ずかしいことなんかないんだぞ
 うまい奴に落としてもらったほうがいいんだ

翔はグッタリと倒れている淳の左腕を持ち上げると、うつぶせの淳の首に腕もろとも自分の両脚を絡めた。三角絞めだ。

 オラ!!竜二に落ちるトコ見せてやるぜっ!!

翔は転がり反転する。仰向け状態で極まる三角締め。首四の字のように淳の顔面は翔のふとももの中で左腕と一緒に圧迫されていた。

 ヒィィィ、、ゲェッヒィィィ、、、、

翔は淳の左腕をピンと伸ばし逆関節に極める。

 ッッんガァァーー!!!!

淳はもう息も出来ないぐらいの状態だ。
翔はもうギブアップも聞かなかった。
首4の字のかたちに極められた淳は、それでもまだもがいていた。

 まだオチねぇや。

翔は更に両足をキツク絞め、腰を天井に向けて突き上げた。

 アアアーーーー!!!1ガッッはアアぁぁっっ!!

 オラァっっ!!!オチロやっっ!!

翔は渾身の力で淳を攻撃した。
竜二には淳の首が取れてしまいそうに見えた。

 ウオウリャアッツ!!!

翔の気合いとともに、淳は落ちた。

竜二は何も言わずに部屋を出た。
海の民宿に太陽が昇った。
潮の香りが開け放たれた窓からそよいだ。


 しっかし、孝司のコブラツイストは効いたぜぇ!

竜二はしみじみと言った。

 ワリッ!マジに極めたな。ホントワリィ!

孝司は笑いながらあやまった。

 このままだと帰れねぇよ、
 オイ、勇太、プロレスしようぜ!

 朝からやってらんないって。
 そうだ、淳先生にケイコ付けてもらうかぁ?

勇太はあくびをかみ殺し、そう言った。
孝司もそうだそうだと、笑った。

竜二と淳は対戦はまだだった。
お互いになんとなく打ち解けずにもいた。

 けど、竜二ィ
 淳はオレよりやばいからなぁ

勇太はニヤニヤと淳を見た。

竜二は正直、淳がそれ程強い相手だとは思っていなかった。筋肉の付きかたはナカナカではあったが、勇太よりも印象は細かったからだ。サボっていたとはいえ、竜二はラガーマン。身体の大きさでは孝司には少し負けるが、ガッチリしていた。

 おっ、竜二がやる気だぜ。淳先生頼むぜ!

勇太は完全に淳にプロレス相手を任せたようだった。
淳はしょうがないなあ、という顔で勇太を見ると、竜二をニラミ付けた。

 朝ゴハンまであんま時間ないからよ、
 全力で極めてくかんな。

淳のその一言で竜二はキレたように襲いかかった。
試合開始である。


淳には竜二にプロレスをさせる気が最初からなかった。
竜二が何度となく技を仕掛けていくのだが、淳には全く受けてやる気がなかったのだ。

絡み付く竜二のチカラを利用して、淳は転がるように竜二の左脚を両脚ではさみ込み、左つま先を右脇に引っ掛けると一気に二の腕で竜二のかかとをひねり返した。

 っっっっっがあああああああ!!!!

竜二はビクつくようにガタイを揺らした。竜二は淳のスネを慌ててタップ!!!

 ッッガッ!!ギブっっ!!ギブっ!!!

無言で解放した淳は立ち上がって竜二の動きを見下ろした。

 オラっ!オラっ!!竜二ぃ!!
 無造作に寝っ転がってると極められちゃうぜっっ!?

勇太は淳をあおった。

淳は竜二の左脚をつかみ上げると、左脇にホールド。反動をつけるように転がった!!

 ッッヌウガァァアア!!!

淳は竜二の左脚を制御するように両脚ではさみ込み、胸を反るようにして竜二のふくらはぎより少し下の部分を腕でグリグリと極めた。

 ッシャアー!!!アキレスっっ!!!
 うめぇっ!!

孝司が興奮して声を上げた。

竜二は叫び声を上げたままの表情で淳の脚をタップ!!
 
 っ!!っっあああっ!!ッブゥ!!ぃブゥっっ!

淳はアキレスを外すと間を置かずに抱えた左脚を攻める。竜二のふともも深くまで両脚ではさみ込みかかとを抱えた。

 っっなあっっ!!ぅうぁぁぁ!!!

淳は竜二の左膝頭にプレッシャーを掛ける。腰を突き出し、背筋力で反っていく。膝十字だ。

 !!!!!!!!!ッッぎゃあアー!!!!
 ぃぃぃブウゥぅ!!!ギィイィィブウゥゥ!!!!

 オイオイ!淳!!
 竜二の身体壊れちゃわねーかあ?

勇太は少しの心配と少しの可笑し味を込めて淳に言った。

 オレは最初からキメキメだって言っただろ!!??

うっすらと汗をかいた淳は笑った。

竜二は極められる度に、ぶざまな悲鳴をあげた。
しかし、竜二はまだまだ淳にむかっていこうとする動きがあった。淳は更に掛けまくる。まさにスパーだ。

タックルをかましてくる竜二をいなしてひっくり返すと素早く左腕を捕まえ両脚ではさみ込む。竜二も攻撃から逃げようとするが、淳の両脚でつぶされ、一気に左腕が伸びる。腕ひしぎが極まった。

 ッッガアアーー!!!ウウッッガアアー!!!

淳はギブを発しない竜二を腕をギリギリと極める。腰を突き上げる。
 
 ッッヌウううアアアアーー!!!
 ッぅブブゥぅ!!!ギブっぅう!!
 タップタップタップ!!!

腕ひしぎをはずした淳は竜二の左腕を制しながら胸に被いかぶさる。竜二は両脚をばたつかせ暴れるが淳は冷静に竜二の左腕をくの字に折り曲げ、背中にねじ込む。

 があああああ!!!!!!!!

淳はガッつりと深くチキンウイングアームロックを極める。竜二の動きを封じるように淳の左脚が竜二の後頭部から首筋に引っかかった。

 ッッガアアア!!!!!!!!
 ッツゥゥゥがアアア!!!!
 ぃぃぃぃブゥゥ!!ィィぃっッブウ!!!

ここまできて、竜二の動きがかなり緩慢になってきた。
淳は竜二をうつぶせにし、またがると、自分の左腕で竜二の左腕絡めた。竜二の顔面に自分の右腕を滑り込ませると、竜二の肩ぐちで両手をクラッチ。

 ウォォ!!極まったあ!!
 チキンウイングフェースロックだぜえ??
 イッテーべ、竜二!!

孝司は興奮気味に立ち上がった。
今まで一言もしゃべらなかった淳の口が開いた。

 ッラァ!!竜二ぃ!ギブかあぁ??!!

ボロボロの竜二にも意地があった。無言でまだ出来ることをアピール。淳は両腕に力を込めてゆく。竜二のうめきが聞こえる。
 
 ギブアップかあ?オラア!!

 ゲッヒィッィイ!!!グッッヒィッィイ!!
 
淳は竜二の腰に自分の両脚を絡め付け、転がった。竜二のガタイは淳のガタイの上に乗っかった。

 キッツー!!
 胴締めチキンウイングフェースロック!!
 完璧じゃん!!
 もうギブだって!!竜二!!ギブしろってっっ!!!

孝司は勇太を見た。勇太は止めようとはしなかった。

 ギブしねんだったら落とすかんなあ!!

顔面にまわしていた淳の右腕が竜二の首にするりと入った。

 ッッはあああ!!!ガッフゥッゥウ!!!!

淳の両腕がギリギリと締まり、太くなる。
胴を絞る両脚が緊張して震えていた。

 もう、ギブはないぜえええ!!!!!

 ッッッゲッッヒいいいいイィイ!!!! 

淳は全身の力で竜二を完全に絞り落とした。
真夏の太陽がギラギラとしていた。

迎えにきた勇太は何も言わずに淳を誘い出した。
駅に着くと、そこには孝司と竜二がいた。

勇太と竜二はプロレス勝負がきっかけで、たびたびつるむ仲になっていた。

4人が向かったのは海の見える民宿だった。
民宿は勇太のオジさんの経営のもので、ちいさな小屋って感じのものだった。4人が泊まってしまえば、それでいっぱいだ。

淳も勇太も孝司も竜二も、海に向かって走った。
大きく青い空は開放感にあふれていた。

じっとりと暑い夜だった。
4人とも昼間の太陽に焼かれ、小麦色になっていた。
得に竜二はよく焼け、黒く光る感じだった。
当然のように4人は上半身ハダカで、短パン一丁だった。
 
 プロレスしようぜ。

ねっころがる4人のなかで、そう言ったのは孝司であった。

 あつ苦しんだよ!

勇太は孝司に毒づいた。

 オレが相手になるよ。

竜二は起き上がると、孝司に被さった。プロレスの開始だ。淳も孝司も少々あきれ顔で二人を見守った。とにかくムシ暑いのである。

最近、孝司はラグビーの練習にもまじめに参加していた。タルんでいた身体も引き締まりだしていた。しかし、孝司の筋トレ好きは止まらないらしく、更に身体を大きくしていた。

孝司に被さった竜二はスリーパーを極めにいった。
孝司は絞られる前に脱出すると、竜二の左脚をアキレス腱固めに極めた。

 ッラァ!!ギブか?

 つアアっっ!!まだっ!まだッッ!!!!

竜二も孝司の左脚にアキレス腱固めに捕らえた。
二人ともガマン比べだ。

 オラア!!ギブしろッ!!筋肉野郎!!

 これでどうだ!!イジメっこ!!

勇太は二人の技をほどかせた。
スタンド状態の二人は休むこともなく組み合った。
もう、二人とも汗みどろで、薄暗い電燈に照らされ、テラテラと身体が光って見えた。

バックに回った竜二は左脚を孝司に絡め、コブラツイストを狙った。

 ウッワッッ!

孝司は固められると竜二を挑発した。

 竜二のコブラはこんなもんかよ!!

竜二は怒り顔で絞りあげた。
挑発する孝司も顔が歪む。

 ウラッ!!ギブかァ!!

 ッッグぅぅっっ!!!!

孝司は竜二の左脚を外しにかかった。ゆるんだ瞬間、竜二は腰で投げられた。孝司は倒れた竜二を立ち上がらせるた。

 倍返しにしてやんぜっっ!!!竜二ッッ!!

孝司は竜二の左脚に自分の左脚を深く絡める。4人の中で一番の成長を見せていたのが孝司である。孝司の長い脚が完璧に竜二の左ふくらはぎを固定する。スルリとはいった長い腕が竜二の首にまわされると、竜二は破裂するような叫び声をあげた。

 ッッギャッッ!!

竜二の顔面で孝司の両手のクラッチが完了。コブラツイストの完成だ。

 っっっららあああああああ!!!!
 ギブかぁ??!!ギブかぁぁ!!??
 っっららぁぁぁ!!!!????

 ッッ!!!!
 ノッっ!!!ノーーーーーーー!!

激痛に歪む竜二は、それでもギブアップしなかった。
孝司は腰を深く落とし、背伸びをするようなかたちで極める。
 
 グッッはアアアー!!!!!!!

 ぅぅッラァぁ!!!
 まいったかぁ!!竜二ィ!!どうだァ??!!

 アッっーーー!!!ガアアーー!!!ノーッ!!

孝司はコブラで決める気のようだ。
でっかい大胸筋を反らした。
クラッチする腕に筋肉のスジが走った。

 ギィィブウウゥするしかないゼェェッ!!!

竜二の胸は大きく開き脱出は不可能だった。

 ッッラァァア!!!! 
 竜二ィ!!
 ギィブゥ???!!!

グイグイと孝司は固める。二人の汗がダラダラと垂れていた。

 ギィイブウ!!!ギィブウアッップウッツ!!!!!

二人は倒れこんだ。

 アッチー。アッチィ!!!!

勇太は立ち上がると、二人の手を取り、立ち上がらせた。

 淳、海に行こう!!

開け放つ窓から気持ちの良い風が吹いてきた。

4人は夜の海を泳いだ。
授業の合間の休み時間。
勇太のクラスの後ろのほうで、悲痛な叫びが聞こえた。教室プロレスだ。

それは、多分にイジメに近いプロレスだった。
やっているのは、ラグビー部で、外れ者の竜二と、いつも一緒に行動しているパシリの正治だった。二人を取り囲むように竜二の仲間が3人ニヤニヤして見ていた。

 ああアーー!!アアアー!!
 ギブ!ギブ!痛いって!!

竜二はサソリ固めを掛けて踏ん張っていた。正治は抵抗できずに、解放だけを待っていた。

 キャメル!!キャメル!!

二人を囲んでいた仲間の一人が竜二にキャメルクラッチを要求した。竜二はサソリをほどくと正治の腹ばいに馬乗りになった。一瞬、正治はホッとしたのが見てとれた。しかし、それも一瞬だけだった。

竜二はイヤがる正治の両腕を自分の両膝に乗せ上げると、急激に正治のアゴを引き上げた。
 
 ウォウリャァッ!!!
 
 っっっっううううがアアアー!!!!!!!

竜二は周りに踊らされるかたちで正治にキャメルクラッチを極めた。

 ッブウゥ!!!ッッッヴウうう!!!!
 ギブゥ!!ギブゥッーーーーーーー!!!

正治のギブアップが教室に響いた。竜二はそんな宣言も聞こえぬ感じで技を離さなかった。

 まだまだチカラあまってんだよゥ!!

 ッッヒィィィいいっっっ!!!!
 ッッガああアーーーーー!!!!

竜二はグッタリとした正治を更に絞りあげた。仲間達も一層、竜二に声援をおくった。

 いい加減にしろやっっ!!!!

止めたのは勇太だった。見ていられなくなったのだ。
竜二を含めて、4人が勇太に注目した。そして教室にいたクラスの生徒たちも事の成りゆきを見守る雰囲気になった。

授業開始のチャイムが鳴った。

 竜二っっ!!
 放課後、道場来いや!
 プロレスの相手してやっから!!!!

勇太はそれだけ言うと、ドカリと椅子に座った。
ちょうどその時、数学の先生が入ってきた。



放課後。柔道部の練習後の道場に竜二はやって来た。

 勇太!来たぜッッ!!???

正治はいなかったが、仲間3人は竜二の後ろから入ってきた。

 よく来たじゃん!!
 俺が竜二の技うけてやッからっっ!!
 思いっきりこいや!!

勇太よりも5センチ程背の高い竜二は上着を脱いで、Tシャツ姿になった。マットに立つ二人を竜二の仲間は見守る。淳たちも突然の戦いを静かに見守った。


竜二は勇太に飛び掛かると、勇太を引き倒し、すかさず足4の字を仕掛けた。勇太は逃げようと思えば逃げられたのだが、まずは竜二の技をうけてみることにした。

 おおおおっっ!!竜二、スッゲェ!!!!

3人が応援する。
足4の字にすえられた勇太は微妙にはずしたかたちにし、反撃の機会を待った。

 オラオラオラオラ!!!ギブか?勇太!!

竜二はグイグイと絞めた。しかし、勇太には余裕があった。勇太は左右に反動をつけるとクルリと反転。4の字を返した。

 竜二!!
 オマエはよぉ!!
 他の奴からプロレス技かけられたことあんのかよ?

勇太は竜二を立ち上がらせると、ヘッドロックの状態からかわず落とし。竜二はマットに仰向けになった。

 あぁぁ!!???竜二ぃぃっっ!!
 サソリ掛けてたよな!!

勇太は竜二の両脚をサソリに捕らえる。反転して腰をガッシリと落とし付けた。

 !!!!ッッウウアアアー!!ッテーッッ!!!

竜二の叫び声が道場に鳴った。

 オラァぁ!!!イテェかよっっ!!?竜二っっ?

 ガッっ!!アアガっっ!!クッソッッ!!

竜二はなんとかサソリをほどこうとするが勇太のサソリはびくともしなかった。

 ギブるかァ?あぁぁ??竜二ィィ!!???

 ッッガぁっ!!ガッっ!!ギブギブっっっ!!

勇太はサソリ固めをほどいた。しかし、勇太の攻撃は終わらなかった。

 あぁぁぁ???竜二ィィッッ!!
 正治はギブの後よぉっ!
 キャメルをくらってたよなァ?

勇太は竜二に馬乗りになると容赦のないキャメルクラッチを固めた。

 グッヒィィ!!!ッガッハッッ!!

勇太は勢いをつけて竜二の腰を絞り上げた。

 ぃぃぃブウ!!!ギィブゥッ!!ギブゥッ!!

竜二のギブアップを聞きいれない勇太はさらに極めた。
勇太の大胸筋がピーンと突っ張り、チカラの限界が感じられた。

 俺もチカラがあまってんだよ!!!
 ッッラァぁ!!ッッラァァア!!
 ガンバッテくれよッ!!竜二ィィっっ!!!

 アアぐうっっ!!
 ッッブゥアァッップゥッッ!!!!

竜二の背中が更に反り上がる。

 マジギブかァァァ!!!!????

 ッッゲッヒィィッッッ!!!!!!

竜二はもう言葉がでなかった。

 勇太!!ストップ!!ストップ!!

勇太の渾身のキャメルクラッチを止めたのは淳だった。
勇太は肩を淳にたたかれて我に返る。

 竜二!!
 プロレスはなァ!!
 認め合った奴とすんのがおもしれんだよ!!
 分かったかァ!!??
 ああぁぁあっっ????

竜二のガタイがびくびくっと痙攣していた。
暑い一日だった。

放課後、勇太は淳のクラスに顔を出した。
 
 プールいこうぜっ!

勇太は二ッと笑った。

淳と勇太はスポーツセンターのプールに行くことにした。

二人は1時間程ふざけあい、涼しさを満喫した。
ちょうど、トレーニングルームの前を通りがかったときだった。ガチャリとドアが開いた。

 おっ!勇太じゃん!淳じゃん!!

その声は孝司だった。
孝司は筋トレに精をだしていた。

 またデカクなったんじゃねぇ?

勇太はボコボコと孝司の大胸筋にパンチを入れた。

 かっちょいーべ?

孝司はビルダーポーズで勇太のパンチを受けた。

 ちょうーどいいや、プロレスしよーぜ!!

孝司は淳と勇太をマットのしまわれている部屋に案内した。

 今日は勇太 対 孝司だな。俺はレフリーな。

 久々だな、孝司!!

勇太は基本通りタックルで下半身をねらう。しかし、孝司はびくともしなかった。

両股に勇太の顔を挟み込むと孝司は軽々とジャンプ。
パイルドライバーだ。決めた孝司に油断が生まれた。勇太は逆立ち状態の両脚を孝司の首に絡めた。それでも孝司は立ち上がると、もう一度マットに勇太を打ち付けた。

 っっんんがあっっ!!

動きの止まった勇太の左腕を孝司は持ち上げる。くの字に折り曲げると間に自分の右腕を差し込んだ。すかさず孝司の右脚が勇太の左腕を挟み込んだ。

 !!ッッううああ!!イタタタア!!

キーロックだ。

 オラオラ!!いてーか?勇太?

 クッアア!!クソッっ!!いってーよ!!!

孝司は笑いながらグイグイと両脚の力で絞め込む。

 レフリー!!
 
孝司は淳を呼んだ。

 勇太!!ギブ?

 ばか!!するか!!

勇太はもがくがなかなかぬけられない。
孝司は自ら技を解くと勇太を立ち上がらせた。バックに回ると勇太をバックドロップ。

完全に孝司ペースだ。
孝司は勇太の両脚を抱えると反転。逆エビ固めだ。

 グッッはアアーー!!!!!

 ギブか?勇太?

 ッッ!!ノッっ!!ノー!!

孝司は大きな胸を反らせてゴリゴリと勇太の腰を痛めつける。

 ツッッッー!!!!ッッガアアー!!!!!

 ギィィブゥウかぁあ??

勇太の身体が今にもボキリと音をたてて折れてしまうぐらいに反りあがっていた。

 勇太!!ギブか?

 ノッノッノーーーーーーーーー!!

孝司の方も不安になるぐらいの逆エビだった。そこに技の緩みが生まれた。

勇太は力まかせに腕立ての体勢から孝司をはねとばす。
勇太は腰を押さえながら、孝司にとびかかる。反撃開始だ。

孝司の左脚を掴むと裏モモに2発、3発とキックをぶちこんだ。

 淳!見てろよ!4の字いくぜっっ!!!!

勇太は孝司の左膝を折り曲げ、自分のスネに絡める。勇太がマットに倒れこんで完成だ。

 ヌウウアアアー!!デデッー!!

 オレだってなっっ!!!
 4の字にやられてばかりじやないんだぜー!!!

勇太はググッと4の字を固める。

 ウラッ!!孝司!!ギブるかぁ!!

 ガッっ!!アガガッっ!!まだまだァ!!

 オッシャ!!

勇太は孝司の左脚を更に右膝の上へと深く極めた。

 ガああああーーーー!!!!

 オッラァぁ!!!!!ギブするかあ???!!

孝司はなんとか身体をかえそうとするが、勇太はそうはさせない。
勇太は孝司の右脚にアキレス腱固めのような体勢で足4の字固めを深めた。勇太は孝司の右足を引っこ抜くような勢いでギチギチに攻めた。

淳は孝司の顔をのぞき込む。

 孝司!!ギブかッ!!?

 !!ガあっっ!!ああアッっ!!ノウノウッ!!

 これでギブだぜ!!!!

勇太は背筋で自分の身体がマットから浮かぶぐらいに孝司を極めた。

 ギイィイブウウッツツッ????

 ガアアー!!ああアーーー!!!
 ッバァアップ!!ッィッパップゥウ!!!!!

淳は勇太の4の字をほどいた。
 
 孝司、参ったか?

 つうウぅぅ、、ハァぁぁ、、、
 やられたやられた、、、

孝司は苦笑いで両脚をさすった。
 ヤルゼー!!一年生!!

雅也の登場だ。道場に入ってきた雅也はすでに戦闘準備万端だった。上半身をあらわにし、サッカーの短パン姿の雅也は淳を見ると、ニヤリと笑った。

 淳はいいや。今日は勇太だな。オラ、来いや!!

淳と勇太は顔を見合わせると、勇太は渋々マットに立った。淳はなんだかおかしかった。

 勇太とは初めてだったな。得意ワザはなによォッ!?

 えぇっと、コブラツイストッすかね?

 よし、掛けてみろや!!

勇太は雅也の背後に回ると、オズオズと左脚を雅也の左脚に絡めると左腕を脇下に通した。

 どおッスか?

 これでイッパイなのかァ?

勇太はその一言にカチンときた。
一気に雅也に力を込めた。クラッチした腕に緊張感が走った。

 オウッ!ッツアアー!!ッテーッ!!

雅也は勇太のコブラツイストを左腕の力でふりほどいた。

 ナカナカだな。俺も思いっきりヤルぜ!!

雅也は勇太を立ち上がらせた。

 俺もコブラ掛けさせろヤ!!

雅也は左脚を勇太に絡めると、一気にコブラツイストに固めた。

 ッッラアーー!!どうだッ!いってーか?

 グッフゥゥ!!まだまだッス!!

 ウオッシャー!!!

雅也は全身のバネで勇太の身体を絞り上げた。
雅也の左脚が勇太のふくらはぎをえぐるように固定する。

 ッラアアー!!ッウラああー!!ギブか?

 ッッ!!アアっっ!!ギブッス!!

雅也はコブラを解放すると、スリーパーでマットに身を沈めた。勇太はすでにダウン状態だ。

 オラァ!!勇太ぁ!!!もうおしまいかよ?

雅也の言葉に勇太はもがくのだが、雅也の腕が首を固めていて動けなかった。勇太は少しずつ身体をずらしながらスリーパーから逃れると、振り絞ってケリをいれた。
ひっくり返った雅也の左腕をつかみあげると、勇太は両脚で挟み込みマットに倒れた。

腕ひしぎだ。

 ッッううラアアー!!!ギブッスか?

 テテテッー!!

勇太は勝ちにいった。しかし、雅也の腕を極めるには少々力不足なのか、雅也はするりと脱出。

 ンンナロっっ!!いってーなコノヤロ!!

雅也はパチンと顔面を殴った。

 雅也さん!
 勇太に必殺4の字掛けちゃって下さいよ!!

淳は雅也を挑発した。

 へへっっ!オッケー!!
 勇太、フィニッシュは4の字だゼェ!!

勇太は淳を睨んだ。淳は笑いをこらえていた。
雅也は勇太の左脚に右スネを巻き込む。

 ッツー!!!

 極まったぜっ!!!
 オラっ!どうだ勇太!!雅也さんの4の字!!

グイッグイッと雅也の4の字が深く食い込んでいった。

 ッラァ!!ッッラァぁ!!ギブか?勇太?

 ガアー!!アアアがアーー!!まだまだッスよ!!

 オッシャーこれでどうだァ?

雅也は掴んだ勇太の右脚をグイッと引き寄せると腹筋運動を2度3度とする。

 ギブギブギブゥ????

 勇太!雅也さんのぶってー脚の4の字はどうよ?

 コラァ、ゆうなって言ってんだろ淳!!

雅也はぎりぎりと容赦のない絞り。

 これでどうだー!!ギブかぁぁぁ!!!

勇太は身をよじらせて4の字の痛みにこらえる。

 オラ、勇太!もうギブしろや。

雅也は腰をギリギリと突き上げる。

 ガアアー!!!ぎゃあアー!!!!
 ギィブウウアップゥウゥウ!!!

 ウオッシャー!!!

雅也は4の字を掛けたままガッツポーズで力コブを作り強さをアピールした。

 アアっっ!!!アアッッウうう!!!
 雅也さん!!はやくはずしてくださいっ!!

淳は笑って見ていた。
勇太、ウチに来いよ。

 俺、勉強しねーとヤべぇんだよ。
 なんだよ、何かあんのか?

 兄貴と久々にプロレスすんだよ。観に来いよ。
 

テスト期間中のため、部活動は休止中だった。
勇太はテストのことは心配だったのだが、翔と淳のプロレスにも興味があった。

理由はわからないが、二人は道場ではほとんど組み合わなかった。


勇太が翔と淳の部屋に着いたとき、試合の準備は整っていた。マット替わりのふとんが敷かれていた。柔軟体操で体をほぐしている翔も淳も競泳用のパンツをはいていた。

翔は赤パンツ。
淳は青パンツだった。

 ヤル気マンマンッすね!

勇太は翔に声をかけた。

 まだ負けらんねェよ!!


淳は水平チョップを数発打ち込んだ。翔は胸を張って攻撃を受け止めた。バチバチと肉を打つ音がした。

翔は淳をフロントスリーパー状に固定すると腹に右膝を入れた。

 グォフッッ!

翔は淳の上体をあげるとラリアットを放った。淳は1発目を耐えたのだが、すかさず翔は2発目を放った。淳はぶったおれた。

翔は腕を狙ったが淳もくるりと身をかわした。
淳は翔の両脚を抱え込む。
 
 よっしゃ、逆エビだ!

勇太は淳の応援だ。
淳はしっかりと自分の両腕をクラッチして、翔の両脚を固定した。

 ッッラァぁ!!!アニキぃ!ギブっっ??!!

翔はまだまだスタミナ十分。脚の力で逆エビから脱出した。

 ヤッパすげぇな翔先輩は。

翔は勇太を見遣ると、淳の両脚を抱え込んだ。

 ゲェ!!逆エビかよ!!!??

淳はグシャリと体が折り曲げられる。

 ッッラァア!!どうだァ?ギブかァ??!!

翔は自分のケツを深く淳の腰に押し付けて、グイグイと絞りあげる。

 ガアアーーー!!ああアーーー!まだまだァ!!

淳はロープである壁を目指す。逆エビに捕らえられたまま淳は前進する。あとわずか、というとこで翔は立ち上がり、マット中央へ引きずり戻し、さらに逆エビ固めを絞る。


 アアっっ!!ガハッッ!!!

 キッツー!!淳!!ギブしろよ!!

勇太の声に翔は更に力んで反り上げる。
それでも淳はギブアップせずにロープを目指した。

 ッッアアア!!ツァアっっ!!ロープッッッ!!!

翔は技を解放した。淳はグッタリとしたままだ。

 オラオラ!!淳!立てよ!!

淳はユラリと立ち上がると、翔に殴りかかった。
ひるんだ翔のバックに回ると淳はぐるりと腕を首に巻き付けた。
スリーパーホールドだ。
淳は翔の胴を両脚で制御すると後頭部に当てた右手に力を込めた。

 ッルウアアア!!ギブかッッ!!!???

しかし、翔の目はまだまだ輝いている。

 ギブアップしろー!!!

翔は左ヒジを淳にぶち込む。

 ッッはぐウぅっっ!!

すばやく立った翔は淳の体をケリあげる。
翔は淳の右腕を首と同時に両脚で絞り込んだ。

 ヤベー!!三角締めだ!!!
 
 フッッグっふうぅぅ!!!!!

 どうだッッ!!ギブするかァ?

淳は応えない。
翔はもがき動く淳をギリギリと締めかける。

 落とすぜッ!!

翔も淳も全身、汗みどろだ。
翔は腰を突き出すと力を全部両脚に注いだ。

 淳!!ギィブゥかッッッ!!!

 淳!!!ギブしろよ!!!

翔は容赦せず更に更に絞り上げた。

 ギブゥアッップゥッッッゥウ????

 ッッううああアーーーがアアーーー
 フッっ!!くっふっっ!!!

淳は体がぶるぶると震えるとガクッと泡をふいた。

 先輩!!先輩!!!落ちてます!!!
 淳が!!落ちましたっっ!!!


翔は三角締めの脚をほどくと、勇太に笑いかけた。
勇太はスゲーな二人とも、と思った。
先輩!今日は俺と勝負して欲しいんすけど。

今日は本間明俊の教育実習の最終日だった。
明俊のさよならプロレスに立候補したのは、翔だった。

明俊はニヤリと笑い、試合開始となった。
道場はすぐにギャラリーで一杯となった。
もしかしたら翔なら先輩に勝てるかもしれないと、淳は思ったし、周りも願った。

 ッシャアッ!!いくゼ、翔!!

明俊は気合いを入れると、翔にドロップキックを放った。まともにくらった翔はマットに崩れた。体格的にふたまわり程の差が感じられた。

明俊は翔の右腕を脇固めの捕らえた。しかし、翔は自ら前転してスルリと抜け出した。立ち上がるのが一瞬おくれた明俊の裏モモに翔はキックを連打。バランスを崩した明俊は倒れた。

脚の攻撃に絞った翔は明俊の左脚を捕まえると、ぐるりと自分の右スネを巻き付けた。

 ッラァ!!どうだッ!!センパイッ!!

翔の足4の字固めが明俊に絡みついた。

 ああっっうう!!イツツッー!!

翔は4の字のクロスした明俊のスネを絞り上げた。

 ギブっすか!!??センパイッ!!

 ノッ!!ノッ!まだだゼッ!

明俊は転がり反転。体重差はあっというまに形勢を逆転させた。

明俊は翔の両脚をインディアンデスロックの状態にし、両膝を翔の背中に押し付けた。

 ッウオウウらぁっ!!

明俊は翔のあごを掴むと反動をつけ、後ろにひっくりかえった。ボウアンドアローだ。

 ッラァぁ!!ッッラァぁ!!翔!ギブかぁ?

明俊はユサユサと両膝で、翔の背中を圧迫する。
 
 アガアアアーー!!!ガアアーー!!!
  
 ギブするかァ!!??オラァぁ!!??

翔はからだを揺さぶった。明俊は技が崩れていくのが分ると、自ら技をほどいた。

 っっくう、、イッテー!!

翔は背中を押さえた。

 油断すんなよぉ?!容赦しねぇぜぇっ??!!

明俊は翔をバックドロップの体勢に捕らえた。
翔は投げられる前に明俊のバックにまわりこむ。
翔は明俊の左脚に自分の左脚を絡め、マットに崩した。
瞬間、明俊の右脇下から差し込まれた翔の左腕が明俊の顔面で、右腕とクラッチされた。

翔のコブラツイストがグランドでかかった。

 グフッゥッゥ!!

明俊のガタイから絞りだすような息が漏れた。

 ハァハァハァハァ!!!
 センパイッ!!ギブッすかッ!!

翔はクラッチした両腕を引き戻すように明俊の首を極めていく。

 どうッすかッ!!ギブッすかッァ!!

明俊は翔の顔面を右手でかきむしった。
ひるんだ翔から明俊は脱出。
明俊は翔の背後から左腕を折り曲げていくと、自分の左腕を入れフック。
うつぶせの翔とマットの前に自分の右腕をすべり込ませると、両腕を翔の左肩口でクラッチ。

 ア!!アウゥッツッツゥウウ!!!

チキンウイングフェイスロックだ!!
 
 翔!!ギブかッ!!

翔は答えなかった。
ぶっとい黒い明俊の両腕が完璧に極められている。

 オラァア!!ギブしかねぇえぜっ!?!!翔!!

明俊は翔の顔面を極めた右腕を自分の方向へと引き寄せた。更に絞り上がる。

 ギィイブすぅるうかぁぁああ!!!

明俊の両腕の筋肉がグググッと盛り上がる。

 これで、どぅだぁああァアア!!!!

翔はマットを右腕でたたいた。ギブアップだ。
明俊はチキンウイングフェイスロックから翔を解放した。

 大丈夫かよっ!?ガマンしすぎだぜっっ!
 すげープロレスできて楽しかったぜッ!!

明俊は翔の頭をくしゃっとなぜた。
オッ!おまえはいいガタイしてるなァ!!

授業のあいまの休み時間に、淳は担任の先生に頼まれたプリントをとりに職員室に来ていた。

その声は教育実習生の本間明俊だった。

確かに、淳のからだは育ち盛りということもあり、翔も
驚くほど日増しに逞しくなっていた。孝司との戦い以来、筋トレに力を入れるようになったせいもあった。

翔は、育ちきっていない体に必要以上のトレーニングは背が伸びなくなってしまう原因になってしまうのではないか?と注意はしていた。

 部活は何をしてるんだ?

本間先生は淳の顔をのぞき込むように質問をした。
淳は柔道をしていることを言うと。

 そいつは楽しみだな。

と、笑った。


柔道の練習の時に、顧問の先生と共に、柔道着に身を包んだ本間先生もやってきた。

本間先生はこの中学校で柔道部の部長をしていたということだ。

 よろしくな!!

色黒の本間先生はガッチリとしていて、なるほど格闘技をしている大人の体格をしていた。

一連のケイコが終了し、みんなはいつものようにマットを引きはじめるた。本間先生は懐かし気に見守っていた。

 俺も仲間にいれてくれな!

本間先生はにこにこと部長である翔に話かけた。

本間先生はまるで当たり前のように胴着を脱いでマットにたった。

 オッシ!淳、来い!!

本間先生は全身がコーヒー色をしていた。
呼ばれた淳はみんなの注目を集めていた。みんな、まだ本間先生のことをよく知らないせいで、変にヨソヨソしい雰囲気だった。
 
 よろしくお願いします!!

少し淳は緊張していた。
兄貴とのプロレスは慣れていたが、本間先生は22、か23歳の大人なのだ。淳は大人の人とプロレスをしたことがなかったから緊張するのも無理はなかった。

 本気できても大丈夫だからな。

本間明俊は厚い胸板を叩きながら笑った。
ギャラリーは見守った。

淳の動きを明俊は待った。淳は下半身にタックルした。明俊は崩れることなく、淳の首を両足で挟んだ。ふわりと腰をもちあげると、ぐさりとマットに打ち付けた。
手加減しているとしても、パワーボムである。

 大丈夫か?

明俊は淳に声をかけたが、そのまま胸を押し付けフォールの体勢になった。淳は肩をあげた。明俊は大きく重い相手だった。
 
 ヨッシャ!!

大きな声をあげると、明俊は淳の右脚をとり、アキレス腱固めを掛けた。

 グゥハァッツ!!

明俊は両脚のバネを使い、淳の右脚を極めた。
淳は左脚で、明俊の絞める左脚をケリ上げた。
明俊は技を解くと、
 
 なかなか楽しめるなァ

と、言った。
淳はすかさず、タックルし、明俊の体を倒すのに成功した。ギャラリーは当然、淳の応援団である。淳は明俊の左腕をとり、両脚で挟み込むとマットに倒れこんだ。

 やった、腕ひしぎだ!!

勇太は叫んだ。
淳は本気の力で、絞った。
明俊の表情がすこし曇るが、まだ余裕があった。

 ギブアップっすかっ!?

 まだまだァッ!!

明俊か淳を絡めたまま立ち上がると、そのまま淳もろともマットに倒れこんだ。

 スゲーな。

勇太は驚いた。
明俊は淳の後頭部を自分の腹に密着させ、両腕をリバースフルネルソンに固めた。

 ダブルアームスープレックスかよ!!

勇太の言うとおり、淳はダブルアームスープレックスに沈んだ。明俊はフォールしたが、淳はカウントを返した。

 ウッシャ!!サソリでフィニッシュだ!!

明俊は淳の両脚をサソリに捕らえるとギャラリーを見回した。ギャラリーは二人の戦いを興奮して見ていた。

 いくぜ!!

明俊は淳を反転させると腰を沈めた。

 ああああ!!!グヒィィイイィィ!!

 淳!ギブするか?

 ノゥノゥッ!

 おまえガンバルナぁ!!

明俊の全身はじっとりと汗をかき始めていた。淳はすでに汗だくだ。

明俊の淳のふくらはぎを持つ右脇に力が入る。

 ギブかァ?

淳の膝を抱える左手に力が入る。

 参ったかァ!!!

明俊の大胸筋が緊張してバーンと張った。

 オラッ!!折るぜッッ!!

淳は逃げられなかった。
明俊は更に絞りあげる。

 ギィィブアップかァァ!!!??

ギリギリと淳の体はしなった。

 !!アアア!!ああ!!
 ギブゥウ!!ギィバアァァップゥゥッ!!!!

明俊はサソリ固めをほどいた。

 淳は強くなるぜッ!

明俊は楽しそうに笑った。
柔道の稽古のすぐ後で、勇太は淳を外へと連れ出した。

 何だよ、プロレスなら道場でしようゼェ

 今日はウチにスペシャルゲストが来るんだよ


勇太の家に着いたとき、家にはまだ誰もいなかった。

 誰もいねぇじゃん

 もう少しで来るって!

どうやら、やってくるのは、勇太の小学校の幼馴染みらしかった。レスリング部でもずっとライバル関係にあり、そこでプロレス技も掛け合ぅ仲だったようだ。

 それでよ、
 俺が中学でプロレスをガンガンしてる話しをしたら
 うらやましがってさ、
 やっぱ、別のガッコの奴
 道場にいれたらヤバいんだろ?

そんな話しをしていると、勇太の部屋に孝司が入ってきた。

 おぅ!遅れたか?わりぃわりぃ!

孝司は背の高さはほぼ勇太と同じぐらいだったが、全体的にみて、ひと回り大きな印象があった。孝司は満面の笑みで、淳に握手を求めた。

 勇太の話し聞いて、俺も相手してもらいたくって

 プロレスの相手してやってくれや!

淳はどうしようかと思ったのだが、初めての相手というのも興味があった。

 うっし!ヤロウぜっ!

淳は短パンいっちょになると、勇太の部屋の中央にたった。毎日の柔道を含めての練習が、少しずつ筋肉を付けてきていた。

孝司も短パン姿になった。たじろぐぐらいのマッチョさだった。

 孝司は筋トレが趣味なんだ。

勇太は笑いながら解説した。
淳は何だかイヤな予感がした。


組み付いた瞬間に重量感が伝わってきた。淳はふわりと持ち上げられ、ブレーンバスターで投げられた。いきなりのことで、淳はもうろうとしてしまう。

孝司は淳の左腕をアームロックに極めた。

 アアガっっ!!!グッハァッ!

 淳!ギブか?

勇太は缶コーラを片手に二人の戦いを見物していた。
孝司はニヤリと勇太を見やると、グイっと淳の左腕を折り曲げにいく。淳にかぶさる孝司のからだは息ができなくなるくらいに重く感じた。

 ガアアーー!!!ノウっ!ノウっ!!
 ッッラアアーー!!!!!

淳の膝が孝司の右脇腹にはいった。
淳はおもいっきりいけると感じた。

 ッラァア!!これからだぜ!孝司ぃっっ!!!

淳はエルボーを垂直に後頭部に落としていく。孝司は這い着くばるように頭を抱えた。右脚を孝司の左脚に絡める淳。孝司の足の甲を自分の右脚の付け根に密着させる
と、一気に孝司の顔を背後から極めた。

 ッックウハァぁ!!!!

 オオゥ!STFときたか!

勇太はほんとにギャラリーになっていた。
淳はクラッチした両手で孝司の顔を自分の方に引き寄せた。孝司もじりじりとロープに寄っていく。

 ッッ!!クぅぅっっ!!ロープっ!!ロープっ!!

淳は技をほどく。首をふる孝司を中央にひきずる淳。
孝司は淳の足を引っ掛けた。背後にまわった孝司は淳をスリーパーホールドに捕らえた。

 淳!ギブか?孝司のマジスリーパーは落ちるぜ!!

 ッラァっ!ギブするか?

 ッッフウッブゥぅぅ!!!!
 
孝司の低い声と荒い息遣いが聞こえた。
孝司はギリギリと締め上げた。孝司の太い腕が淳の首に巻き付き強烈に締め上げていく。

淳は右足をのばす。ロープが近い。

 させるかッ!!

孝司はさらに絞り上げた。

 ッッッガハッッ!!!!ロープッッ!ロープッッ!!
 
勇太は孝司のスリーパーをほどかした。
グッタリの淳を孝司はフルネルソンに固めた。瞬間、淳は腰を落としてスルリと抜け出した。

淳は孝司の右足にタックルし、孝司を倒す。
2度3度と孝司の腰に両膝をたたき落とした。
淳は孝司の背中に乗ると、逃げる孝司の両腕を自分のモモに乗せ上げた。

 アァぁっっ!!孝司っっ!!!
 淳のキャメルが極まんぜっっっっ!!!!

勇太は興奮して叫んだ。
淳は孝司のあごをガッチリと極め、孝司の上半身を反り上げた。キャメルクラッチ極まる!!

 ッッラァぁ!!!どうだァ!!!!

 ガアアーー!!!ウゥゥッゥ!!!

 ギブするか?孝司!!

勇太はキャメルクラッチをくらう孝司の顔をのぞきこむ。

 ノッ!!ノッ!!まだっっ!まだっっ!!

淳は両足を突っ張らせ、腰を深めて、孝司の背骨を圧迫した。

 ギブアップかァ?

 おおおおおアアアアーー!!!ノゥーーーー!!

ロープは遠かった。
淳は歯を食いしばり、絞りに絞りあげた。

 オッラアアア!!!!参ったかァァッッ??!!!

 ギィィィイヒィィィ!!!ノオッ!!

 これでどうだぁっ!!

孝司の筋肉質の上半身がギリギリと反り上がる。

 ッッララアアア!!!ギブかァ??!!!!!
 ッッラァぁ!!!!ギブしかねぇぜっっ!!!??

 ガッっ!!!ヒィイィ!!!
 ギィブっっ!!!ギィブアップゥッ!!!!!




淳はキャメルクラッチで孝司に勝った。
汗だくの二人は勇太からコーラを受け取り、ゴクゴク飲んだ。

 スゲーキャメルだったぜ
 またしようぜ!!
 
孝司は笑った。
ぐったりと横たわる良二。
睨みつける勇太を横目に、淳は呼ばれるままに道場を出た。

無言で雅也は淳をサッカー部の部室へと連れ込んだ。

雅也は汗だくの淳にタオルを渡した。
淳は無言で会釈をしてタオルを受け取った。体をふき、タオルを肩にかけた。部室は乱雑にちらかり、ほこりっぽく、らしいといえばらしかった。

 昨日はワリかったな。淳。

雅也は苦虫をつぶした顔でそう言った。頭をカリカリとかきながら、淳を長椅子に座らせると、雅也も隣に座った。淳は黙っていた。

 痛かったか?そりゃイテェよな。
 悪かったな、マジになっちゃってよ。

 ••••••••••••••••••そりゃぁ••••••
 先輩の4の字はキツかったッす!

 わりッ!ホント!マジでっ!

 先輩のぶっとい脚は超協力ッすよ!

 ぶってぇって言うなよなー。

雅也は笑いながら脚をさすった。
  
 •••••••••••••••••あぁぁ•••••••••••••••••
 ムシャクシャしてたんだよな。

 ••••••何かあったんすか?

 ••••••ン?あァ?••••まぁ•••••••••••
 レギュラー外れちゃってな
 カッコワリーよなァ。男のヒステリーだよ!!

恥ずかしそうに雅也は淳の顔を見た。
 
 翔はなんか言ってたか?

 ••••••••••••••雅也先輩にも••••••••
 いろいろあるんだろうって••••••••••••

 ••••••••••そっか•••••••••••••••••
 ま、ホント悪かったな•••••••••••••••

雅也は淳を拝むようにあやまった。

 もういいッすよ!!
 それよりまたバチバチなのしましょうよ!!

 オウ!!またしょうな!!プロレスサイコー!!



道場に戻ると、勇太が掴みかかってきた。
 
 オレの話しは終わってネーんだからな!!

腰で投げ飛ばすと、淳を逆エビに固めた。
 
 オゥラッ!痛いか?良二ィ!見てるか?

良二はそばにいた。

 淳、あやまれよな!
 良二はスゲェ痛かったぞ!!

勇太はグイグイと締めた。

 俺を締め落とすのとは違うんだからな!!プロレスの相手は俺がしてやる!!

 がアアーー!!!ギブっっ!!ギブっっ!!
 
 まだまだこんなもんじゃなかっただろ?
 まだまだ極めるぜェ!!ウオリャッ!


勇太は両足をマットに踏ん張らせると気合いを込めて胸を反り上げ、ケツをグイグイといれていった。

 ダダアアアーーー!!ギィブアァップッ!!
 
 まだまだァ!!

勇太は限界の力をヤメずに極める。勇太の首すじがピーンと張り詰める。

 ハグゥゥゥガガあ!!
 ギブゥ!ギィブゥウゥウ!!!!

勇太は逆エビ固めを外そうとしない。
淳はマットをたたいて、助けを求める。

 ギブウゥぅ!!!ギブウゥぅ!!!
 ギィブアーァップゥ!!!!!


勇太を止めたのは良二だった。
勇太はどさりと淳の両脚をおろすと、倒れた淳に向かって言った。

 なにかあったら俺にぶち当たってこいや!!

淳は痛かったが、うれしかった。
雅也先輩にボコボコにされた次の日、その日不在だったはずの勇太がニヤニヤしながら淳の教室にやってきた。

朝から勇太は大声だ。

 フィニッシュは4の字だってな!キツかったか?
 雅也さんのあのぶってぇ脚の4の字だろ?
 たまんなかっただろ??

勇太はそれだけ言うと、いらだちを隠せない淳を尻目にとっとと自分の教室にいってしまった。



柔道部の練習は終了し、道場にはプロレス好きが集まり、マットが敷かれていた。

筋トレに汗を流すもの。後輩に関節技を指導する先輩。じゃれあうようにスパーリングを開始するもの。

淳は道場を見回して勇太を探したが、まだきていないようだった。

淳の目に、一人マットに座る、同じ1年生の陸上部の良二が映った。

 良二っ!俺といっちょやんねぇ?

 俺はいいよ。俺はプロレス見んのが好きなんだよ。

 何言ってんだよ!やろうぜ!
 プロレスは見るよりやるほうがおもしれんだから。

いつになく淳は強引だった。淳は良二をヘッドロックに捕らえると、ひきずるように立ち上がらせた。良二の
ほうがひと回り体格は小さい感じだ。

 あつつっっ!!淳!やめろよ!

淳はなんだかどんどん残酷になっていくのを感じたが、自分では止められない高揚感に満たされていた。

 痛いってぇ!!!淳っっ!!

淳は頬骨をギリギリと極めた。良二はジタバタするのだが、反撃はしてこなかった。ヘッドロックを解放した淳は良二の左腕を取り、マットに押しつぶした。脇固め
だ。

 っッアアアーー!!痛い!!痛い!!

淳は良二の叫び声を聞いて、さらに左腕を絞り上げた。

 オラっ!!良二ぃぃっっ!!返してみろやっ!

 ッッゥウアアアーー!!淳!!ギブアップ!!!

淳は脇固めを外すと、腹ばいの良二の両脚を折り畳み、自分の右脚をこじ入れた

リバースインディアンデスロックだ。

淳の右ふくらはぎに良二の左足の甲が密着していた。
反動をつけ大きくマットに倒れこむ淳。衝撃が良二の両足に爆発した。

 ッッガアッっ!!ウワー!!

淳は2度、3度と倒れこみ極めた。

 ガッ!!ああ!!ギブ!!ギブギブ!!

ようやく解放した淳は、ヒクついた良二の背後から左腕をハンマーロックに捕らえ、自分の右腕を良二に首に巻き付けた。淳の両手は良二の左肩口でクラッチ。

 ガああアーーー!!ギブッッッー!!!!

淳はくるりと転がると、良二の体を自分の上に乗せる型にし、良二の胴を両脚で挟みこんだ。

 ああ!!アアグぅぅ!!ギブゥ!!
 ギブぅぅ!!!ギブウゥゥウ!!!!

胴締めチキンウイングフェイスロック!!!!!
更に頸動脈が絞められるかたちで入っていた。

 ギィブゥウ!!!!ギィィブウゥ!!!

淳は良二のギブアップを聞いていたのだが、技を解こうとはしなかった。淳は体を揺さぶり、クラッチを強め、両脚の胴締めをギリギリ締めた。

 ギィイブウゥゥ!!!ギィブウゥぅ!!!

淳は締めに締め、絞りに絞った。
その時、淳の後頭部に衝撃がはしった。

 淳!てめェ、なにやってんだァ?

勇太のケリが淳を正気にさせた。
淳は技を振りほどき、良二を放り出した。良二は咳き込み、その場でうずくまった。

 自分が何してたかわかってんのかァ?あァ?

勇太は怒りに任せて淳をケリ上げた。
淳は勇太の怒りの理由が分かっていた。淳は抵抗のしない相手をただイジメていただけなのだ。

 淳!分かったか!!

 オウ!淳!ちょっとこっち来いや!!

勇太の後ろで雅也先輩の声が響いた。
なんだよ、またやられにきたのか?

部活終了後に道場にやってきた雅也を翔はからかった。雅也はまだ翔には勝てないでいた。

 ウルセーよっ!!今日はムシャクシャしてんだっ!
 オウ! 1年生!今日は俺がイジメちゃるゼッ!!

的になったのは淳だった。
雅也はさっさとマットにたつと、指を鳴らして淳を待った。

 オラ!早くこいよ、プロレスしよーゼ!!

今日の雅也はいつになく荒れていた。
淳は翔の顔を見た。何だか不安だったのだ。
翔は、オレがいるから大丈夫だ。
そんな表情でジュンを促した。

 オラ!ヤルゼ!!

ソロソロとそばの寄る淳に雅也は笑いかけた。

 今日はオレの練習台だからな!

雅也は、淳の足を払うと、早速グランドに持ち込んだ。
ぶっとい脚が淳の胸をおさえこんだ。淳の左腕は雅也の両腕の中だ。

 腕ひしぎィー!!

 ッッガアアー!!!ああっっ!!ああっっっ!!

淳の左腕がビリビリと痛んだ。
雅也は背筋力で腰を突き出し、折りにかかる。

 アッっ!!先輩っっ!!ギブ!
 ギブアーップ!!!!

淳は雅也の気迫が恐くなり、早々に音をあげた。
雅也は脚をどけると、腕をさする淳を腹ばいにさせ、馬乗りになった。淳の両腕が雅也の両モモにのせられた。

 オラオラ!!キャメル!!極めちゃうぜっ!!

淳のアゴにまわされた雅也の両腕がグイグイと淳の体を折り曲げる。

 ガアアーー!!!グッヒィィ!!グフウウ!!!

 ッッラァぁ!!!ッッラァぁ!!ギブっ!!!??
 
 アアーー!!ッッガァァーー!!
 ギブっっ!!!ギブっっ!!!!!

雅也は淳の体を放り出すと、淳の髪をつかみあげ、無理矢理に立ち上がらせた。そして、腰をかがめ、軽く淳の体を肩に乗っけてしまった。

 アルゼンチンバックブリーカー!!

淳はもがいて逃げようとするのだが、バランスの保たれた雅也からは逃れられなかった。

 ッラアアーーーー!!!!!
 ッッウウッッラアアーーっっ!!

 ゲッヒィィィーーー!!!
 ヒィィイ!!ヒィィイ!!!
 ッッ!!ギブッっっ!!!!!
 ギブアップッすッ!!!

雅也はどさりと淳をマットに落とした。
雅也は仰向けに淳を蹴り転がし、淳の左脚を自分の右スネに巻き上げ、ロック!!

 ッッラアアーー!!!足4の字、極まった!!

 ッッううううああアーー!!!
 ガアッっ!!ぎゃっっ!!

雅也は更に淳の左スネを淳の右膝うえにまで深く技を極めた。淳の痛みは絶叫で表された。

 ガアアーー!!!!!っっっ!!!あっっ!!

 ッラァぁ!!イッテーか?
 ッオッラァっっ!!

雅也は淳の左脚を抱える下で、腰を更に突き出し絞りに絞った。

 ッぅっ!!先輩っっ!!
 ぃぃブウ!!!ィィブゥぅ!!
 ギブアップ!!ギブアップ!!!

 聞こえねェよ!!おらおら!!!

 先輩!ギブッす!!ギブッすッッッ!!!!

雅也は4の字をはずそうとしなかった。
淳は頭を抱えて痛みの去るのをまった。
長く見守っていた翔がたちあがり、ジャンプ!
翔のギロチンが雅也ののど元におちた。

 オラっっ!!雅也ぁ、もういい加減楽しんだろ?
 淳のギブを認めろよ。

翔は優しく言った。
雅也はぶっとい脚をさらに力ませ、淳を締め付けた。

 ッッッウーーーーーアアアアーーー!!!
 ギブ!ギブ!ギブッす!!!!!

雅也はようやく4の字をほどいた。

淳の両脚にはまだ雅也のぶっとい両脚が絡み付いたような感覚が残り続けた。

淳に早くも親友が出来た。勇太だ。
クラスは違ったが、たびたび行き来があった。二人はプロレスで、お互いの力を確かめ合ったのだ。

まだ始まったばかりの1年生の中で、二人がどのように知り合ったのか知るものは少なかった。淳と勇太は文字通り、ぶつかりあって、理解の入り口にたったわけだ。


 勇太、今日ウチに来いよ。

 オウッ、いくいく。

今日は部活のない日だった。


淳と勇太は連れ立って家路についた。

 昨日の深夜の「バトルアーツ」のビデオ見るか?

 見る見る!ウチのテレビじゃ見られないんだ。

 いいよな「バトルアーツ」は。バチバチだもんな。

 ああ、ガチガチだぜ。シビレルよなァ!!

二人はビデオを見始める前から興奮していた。
内様は思っていた以上に充実していた。
キックのやりとりからグランドへのバチバチ感は二人の闘争心に火をつけるのにはもってこいの試合がめじろ押しだった。

 おう!淳!いっちょヤんねぇ?

淳はすかさず立ち上がると、制服を脱ぎはじめた。
勇太もいそいで脱ぎ出した。

 今日は勝つぜ!!

勇太はまだ淳から勝ち星をとっていなかった。
二人は軽くストレッチをして、体調を整えた。

 準備はいいのかよ、淳!

淳は早速、勇太に飛びかかった。
淳のヒザが勇太の腹に入った。腹を押さえる勇太の首を両股で固定すると淳は抱え上げてジャンプ。ドスンと勇太の頂頭部を下に突き刺した。パイルドライバーだ!!。

 がっ!!
 イッテー!!いきなりかよ!!

今日の淳の攻撃は早かった。うずくまる勇太のノド笛をめがけて、ギロチンドロップ!淳は勇太に被さり、カバーの体勢。勇太も簡単にはカウントを取らせたりはしない。

 まだまだ、へばっちゃいねーてッ!

淳は腕ひしぎ逆十字をねらうが、逃げられた。
バックを取られた淳を軽々と抱え上げると、勇太は自分の膝の上に淳の尾てい骨を打ち付けた。アトミックドロップ!!
  
 うっっ!!!グウウーー!!!

 へへ、効くだろ!

淳は倒れこむ。頭に痛みが響いた。
勇太は淳の右足をとり、腰をおとした。片逆エビ固めだ。

 オラっ!!どうだッ!ギブかッ?

 ッッううアアアー!!ノーッ!

 これでど、う、だァー!!!!

淳のからだが限界まで反り上がった。

 ッッぐうがアアーー!!

 ギブアップかよっっ!!?淳っ!!??
 オッラァ!!どうよっっ!!?参ったか!!?

 ッぁぁッ!!ロープッ!ロープッ!!!

極まった場所が良かったら、淳はギブしていたかもしれない。勇太は技をほどくと、淳を中央まで引き寄せた。

 今日は勝つぜ!

一段と気合いを込めて、淳を立ち上がらせると、水平チョップを胸板にたたきこんだ。淳は一発を耐えて、お返しにヘッドバットを入れた。不意をつかれた勇太は目をつぶってしまった。淳はチャンスとみるや、バックから勇太に脚をからめ、右脇下にもぐりこむとコブラツイストを完成させた。

 ガッハッっ!!グぅうおお!!

 この前のお返しだぜっ!!!!極まってんだろっ!?

淳の首筋に対するクラッチは完璧だった。

 オラぁぁっ!!オッラァぁ!!ギブか?

 ガッ!!ハガっっ!!まだっ!まだッ!

淳はさらに体全体を使い、極めていく。深く入ったコブラツイストに勇太はギブ寸前だった。

そのとき、部屋に翔が入ってきた。

 オッ!やってるなー。オレもしてぇ!

 兄貴はレフリーだ!


コブラツイストを締め上げながら淳は翔に言い放った。

 オウオウ、どうだ?勇太、ギブか?

 オオッッァァァーーー!!ノーッ!
 
 よし、勇太!淳の左脚のロックがあまいぜ!

翔は勇太にアドバイスを送った。
勇太はその言葉に動いた。左ひじを淳の左膝に打ち込んだ。淳のコブラツイストはとたんに壊れてしまった。

 っっとに!!兄貴はなに言ッてんだよ!!

翔は知らん顔で、あぐらをかいていた。

 ああ、痛ッー!!

勇太は力を振り絞り、淳にローキックを数発ケリこんだ。淳の上半身がかがんだ瞬間をねらい、右脚を淳の左脚に引っ掛けると反動で、左脚を首に掛けた。

 ッッラアアアアアーー!!!!どうだー!!

勇太は淳の右腕を左腕で固めると、上体そ反らし上げた。
 
 卍だぜッ!!!

 淳!極まってるぞ!ギブアップか?
 スゲェぜっっ!!勇太っっ!!

勇太は待つことなく力を加えた。勇太のふくらはぎが今にも淳の首を刈りあげるいきおいで絞り、締めた。

 オラオラっっ!!どうよっっ!淳!
 オレの卍はどうよっっ!!!??

 淳、いいぞ、ギブしろ!!

 これでどうだー!!!!

勇太の気合いが淳に響いた。

 ガッハァぁ!!!ハガァァアーーー!!!
 ギブっ!!ギブアップッ!!!!

勇太は淳を解放した。二人とも汗みどろのプロレスだった。

 どうだったよ!オレの卍は?極まってたか?

 いってーよ。まったく。加減しろよ。

淳は首を摩りながら答えた。

 よし、勇太!オレの番だぜっ!!??しようぜ!!

 ダメッすよ!!翔先輩とはまた今度ッてことで!

 やろうぜ!オレもプロレスしてぇ!!

 今日はもう終わりっすよ!!

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